現代のホテル運営において、顧客満足度の向上と業務効率化は永遠のテーマです。日々多くの宿泊客を迎え、膨大な予約情報や顧客データを扱うホテル業界では、人手による管理には限界があります。そこで中心的な役割を果たすのが、PMS(Property Management System)、通称「ホテル管理システム」です。
この記事では、ホテル運営の心臓部ともいえるPMSについて、その基本的な意味から、混同されがちなサイトコントローラーとの違い、主要な機能、導入のメリット・デメリット、そして自施設に最適なシステムを選ぶためのポイントまで、網羅的に解説します。さらに、2024年最新のおすすめPMS製品もご紹介しますので、PMSの導入や乗り換えを検討しているホテル・宿泊施設の担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
PMS(ホテル管理システム)とは?
PMSとは、「Property Management System」の略称で、日本語では「ホテル管理システム」と訳されます。その名の通り、ホテルや旅館、民泊といった宿泊施設(Property)の運営に関わるさまざまな情報を一元的に管理(Management)するためのシステム(System)です。
具体的には、フロント業務の根幹である予約管理、客室の在庫管理(ルームインジケーター)、顧客情報の管理(CRM)、料金管理、そしてチェックアウト時の会計処理まで、宿泊客の入退館に関わる一連の業務を統合的にサポートします。
かつてこれらの業務は、手書きの予約台帳や客室管理ボード、個別のExcelファイルなどを使って、アナログな方法で行われていました。しかし、この方法では予約の重複(ダブルブッキング)や情報の転記ミスといった人為的ミスが発生しやすく、部門間の情報共有にも時間がかかり、業務が非効率になるという大きな課題がありました。
PMSは、これらの課題を解決するために生まれました。すべての情報をデジタルデータとして一元管理することで、業務の自動化と効率化を実現し、人為的ミスを劇的に削減します。さらに、蓄積されたデータを分析することで、稼働率や客室単価といった経営指標を可視化し、データに基づいた戦略的な経営判断を支援する役割も担います。
【PMSがない場合の架空シナリオ】
- 予約担当者Aさん: 電話で受けた予約を台帳に手書きし、Excelの予約リストにも入力。その後、予約確認書を作成して郵送する。複数の予約サイトからの通知メールを確認し、都度、手動で台帳とExcelに転記。転記漏れがないか常に不安を抱えている。
- フロントスタッフBさん: チェックイン時、お客様に宿泊者カードへ手書きで記入してもらう。台帳で予約情報を確認し、空いている部屋を割り当てる。清掃スタッフに内線で清掃完了の部屋を確認しながら、お客様を案内する。
- 支配人Cさん: 月末、各予約サイトの管理画面と手書き台帳、Excelファイル、経理の売上伝票を突き合わせて、月の稼働率や売上を手計算で集計する。レポート作成に数日を要し、迅速な経営判断が難しい。
【PMSがある場合の架空シナリオ】
- 予約担当者Aさん: 電話予約の内容をPMSに入力するだけで、予約リストへの反映と空室在庫の調整が完了。予約確認メールも自動で送信される。予約サイトからの予約は、連携するサイトコントローラーを介してPMSに自動で取り込まれるため、転記作業は一切不要になる。
- フロントスタッフBさん: お客様が事前にオンラインチェックインで入力した情報がPMSに反映されているため、当日は署名をいただくだけでスムーズに手続きが完了。PMSの客室管理画面(ルームインジケーター)を見れば、清掃済みの部屋が一目瞭然で、すぐにキーをお渡しできる。
- 支配人Cさん: PMSのダッシュボードを開けば、リアルタイムの稼働率、平均客室単価(ADR)、販売可能客室数あたり収益(RevPAR)などの経営指標が自動でグラフ化されている。いつでも正確な経営状況を把握し、次の販売戦略を立てることができる。
このように、PMSは単なる業務ツールではなく、フロント、予約、経理、ハウスキーピング、そして経営層まで、ホテルに関わるすべてのスタッフの業務を円滑にし、最終的には顧客満足度の向上と収益の最大化に貢献する、まさに「ホテル運営の神経中枢」ともいえる不可欠な存在です。
PMSとサイトコントローラー・BMSとの違い
ホテル運営を支援するシステムには、PMSの他にも「サイトコントローラー」や「BMS」といったものがあります。これらはそれぞれ異なる役割を担っており、その違いを正確に理解することが、自施設に最適なシステム環境を構築する上で非常に重要です。
サイトコントローラーとの違い
サイトコントローラーとは、楽天トラベルやじゃらんnet、Booking.comといった複数のオンライン旅行予約サイト(OTA:Online Travel Agent)の在庫、料金、予約情報を一元管理するためのシステムです。
PMSが主に「館内」の業務を管理するのに対し、サイトコントローラーは「館外」の販売チャネルを管理する役割を担います。両者の関係性は、しばしば「心臓」と「血管」に例えられます。PMSがホテル運営の心臓部として全体の司令塔となる一方、サイトコントローラーはOTAという血管を通じて外部から予約(血液)を取り込む役割を果たします。
項目 | PMS(ホテル管理システム) | サイトコントローラー |
---|---|---|
主な目的 | 館内業務の効率化と情報一元管理 | 複数OTAの在庫・料金・予約の一元管理 |
管理対象 | 予約、客室、顧客情報、会計、売上データなど | 各OTAの客室在庫、料金プラン、予約情報 |
主な利用者 | フロント、予約、経理、ハウスキーピング、支配人 | 予約担当者、レベニューマネージャー、支配人 |
役割 | ホテル運営の基幹システム(内部管理) | 販売チャネルの管理システム(外部連携) |
具体例 | チェックイン/アウト、ルームアサイン、請求書発行 | OTAの在庫調整、料金一括更新、予約情報の取込 |
【連携の重要性】
PMSとサイトコントローラーは、単体でも機能しますが、両者を連携させることで、その真価が最大限に発揮されます。
- 連携がない場合: サイトコントローラーでOTAからの予約を受信しても、その情報を手動でPMSの予約台帳に転記する必要があります。この作業には手間がかかり、転記ミスやダブルブッキングのリスクが常に伴います。また、PMSで直接電話予約を受けた場合、その分だけ各OTAの在庫を手動で調整(手仕舞い)しなければなりません。
- 連携がある場合: サイトコントローラー経由で入った予約は、自動的にPMSに登録され、客室在庫もリアルタイムで更新されます。逆に、PMSで電話予約やウォークインの予約を登録すると、その情報が即座にサイトコントローラーに送られ、全OTAの在庫が一括で調整されます。これにより、予約管理に関わる手作業がほぼゼロになり、ダブルブッキングのリスクを根本から解消できます。
このように、PMSとサイトコントローラーは役割こそ違えど、現代のホテル運営においては「セットで導入・連携させること」が常識となりつつあります。
BMS(宴会管理システム)との違い
BMSとは、「Banquet Management System」の略称で、宴会や婚礼、会議、展示会(MICE)などの予約手配、運営管理、請求までを一元管理するシステムです。
PMSが「宿泊部門」に特化しているのに対し、BMSは「宴会部門」に特化したシステムといえます。宴会場や会議室を持つシティホテル、リゾートホテル、総合結婚式場などで主に導入されています。
項目 | PMS(ホテル管理システム) | BMS(宴会管理システム) |
---|---|---|
主な目的 | 宿泊業務の効率化と管理 | 宴会・婚礼・MICE業務の効率化と管理 |
管理対象 | 宿泊予約、客室、宿泊客情報、宿泊会計 | 宴席予約、会場、備品、料理、スタッフ、請求 |
部門 | 宿泊部門 | 宴会部門、婚礼部門、セールス部門 |
特徴 | 部屋単位の予約・在庫管理が中心 | 予約から手配、実施、請求までの工程管理が複雑 |
具体例 | 個人の宿泊予約管理 | 企業の周年パーティー、個人の結婚披露宴の管理 |
【連携の重要性】
宿泊施設と宴会場を併設している大規模なホテルでは、PMSとBMSの連携が極めて重要になります。
【具体例:企業研修での利用】
ある企業が、社員研修でホテルを利用するケースを考えてみましょう。この企業は、50名分の宿泊(50室)と、2日間の会議室利用、初日の懇親会、2日目の昼食を予約しました。
- 連携がない場合: 宿泊の予約はPMS、会議室と懇親会の予約はBMSに、それぞれ別々に登録されます。営業担当者とフロント、宴会サービス担当者の間で、顧客情報や手配内容をメールや内線で何度もやり取りする必要があり、情報伝達のミスや漏れが発生しやすくなります。請求も、宿泊分と宴会分で別々に発行され、お客様に不便をかける可能性があります。
- 連携がある場合: 営業担当者が最初の問い合わせ内容をBMS(またはPMS)に入力すると、顧客情報が両システムで共有されます。宿泊予約はPMSに、宴会・会議室の予約はBMSにスムーズに連携され、各部門の担当者は常に最新の正しい情報を確認できます。すべての利用料金を合算し、一枚の請求書として発行することも可能になり、顧客にとってもホテルにとってもスマートな対応が実現します。
まとめると、PMSは宿泊業務、サイトコントローラーは外部販売チャネル、BMSは宴会業務と、それぞれ専門領域が異なります。自施設の業態や規模に合わせて必要なシステムを選び、それらを有機的に連携させることが、ホテル全体の生産性向上とサービス品質の向上に繋がる鍵となります。
PMSの主な機能
PMSには、ホテル運営を円滑にするための多彩な機能が搭載されています。ここでは、ほとんどのPMSに共通して備わっている主要な機能を6つに分けて、それぞれ詳しく解説します。これらの機能が連携し合うことで、ホテル業務全体が最適化されます。
予約管理機能
予約管理は、PMSの中核をなす最も基本的な機能です。自社ウェブサイトの予約エンジン、電話、メール、ウォークイン、そしてサイトコントローラー経由で各OTAから入るあらゆる予約情報を一元的に集約・管理します。
- 予約データの集約: 異なるチャネルからの予約情報を一つの画面で確認・操作できます。これにより、予約状況の全体像をリアルタイムで把握できます。
- ダブルブッキングの防止: 予約が入ると同時に客室在庫が自動で減算されるため、同じ部屋を重複して販売してしまう致命的なミスを防ぎます。
- 予約処理の効率化: 予約の新規登録、内容変更、キャンセル処理などをシステム上で簡単に行えます。リピーターのお客様であれば、過去の情報を呼び出して入力の手間を省くことも可能です。
- 団体予約管理: 修学旅行や企業研修などの団体予約に対して、部屋の割り当て(ルームアサイン)を一括で行ったり、代表者宛にまとめて請求書を作成したりする機能も備わっています。
この機能により、予約担当者は煩雑な手作業から解放され、より丁寧な顧客対応や販売戦略の立案といった付加価値の高い業務に集中できるようになります。
客室管理機能
客室管理機能は、「ルームインジケーター」や「部屋割り盤」とも呼ばれ、全客室の状況をリアルタイムで可視化します。フロントスタッフとハウスキーピング(客室清掃)スタッフとの間の重要な情報連携ツールとなります。
- ステータスの可視化: 各部屋の「空室(VC)」「宿泊中(OC)」「清掃中(CM)」「清掃済(CI)」「修理中(OO)」といったステータスが色分けなどで直感的に表示されます。
- 効率的なルームアサイン: チェックイン時、フロントスタッフは画面を見るだけで清掃済みの部屋を即座に把握し、スムーズにお客様を割り当てることができます。
- ハウスキーピングとの連携: 清掃スタッフがハンディ端末やスマートフォンアプリから清掃の開始・完了を報告すると、その情報がリアルタイムでPMSに反映されます。これにより、フロントは電話で状況を確認する手間が省け、清掃完了後の部屋をすぐに販売できるようになります。
この機能は、客室の稼働率を最大化し、お客様を待たせることなくスムーズに案内するための必須機能です。
顧客情報管理機能
顧客情報管理機能は、CRM(Customer Relationship Management)機能とも呼ばれ、一度宿泊したお客様の情報を資産として蓄積・活用するためにあります。
- 顧客データベースの構築: 氏名、連絡先といった基本情報に加え、宿泊履歴、利用金額、誕生日や記念日、アレルギーの有無、新聞の好み、リクエスト内容(例:「高層階希望」「硬めの枕が好き」)といった詳細な情報まで記録できます。
- リピーターの育成: 蓄積した情報を基に、リピーターのお客様に対して「〇〇様、いつもご利用ありがとうございます」といったパーソナライズされた挨拶をしたり、誕生日月に特別なプランを案内するメールマガジンを送ったりすることができます。
- サービス品質の向上: お客様からの特別なリクエストや過去のクレーム内容などを全スタッフで共有することで、先回りしたきめ細やかなサービスを提供できます。これにより、顧客満足度とロイヤリティが向上し、優良顧客の育成に繋がります。
この機能は、単なる「宿泊施設」から「選ばれ続けるホテル」へと進化するための戦略的な武器となります。
料金・販売管理機能
料金・販売管理機能は、ホテルの収益を最大化するためのレベニューマネジメントを支援します。
- 料金設定の柔軟化: 曜日や季節(シーズナリティ)、周辺のイベント、残室数に応じて宿泊料金を変動させる「変動料金制(ダイナミックプライシング)」を容易に設定できます。
- プラン作成・管理: 「朝食付きプラン」「連泊割引プラン」「早割プラン」など、多種多様な宿泊プランを簡単に作成し、販売期間や適用曜日などを細かく設定できます。
- 販売チャネルごとの料金制御: 自社サイトとOTAで料金や販売するプランを変えるといった、チャネルごとの販売戦略を実行できます。
この機能により、需要と供給のバランスを見ながら最適な価格で客室を販売し、収益機会の損失を防ぎ、売上を最大化することが可能になります。
売上・会計管理機能
売上・会計管理機能は、お客様のチェックアウト時の精算業務と、日々の売上管理を正確かつ効率的に行うための機能です。
- 請求書の一元管理: 宿泊料金だけでなく、レストランでの飲食代、ルームサービス、スパの利用料など、館内施設での利用料金をすべて宿泊客の会計に「部屋付け」し、チェックアウト時にまとめて精算できます。
- 精算業務の自動化: 各種クレジットカード決済端末やキャッシュレス決済サービスと連携し、スムーズな会計処理を実現します。これにより、計算ミスや請求漏れを防ぎます。
- 売掛金管理: 法人契約の企業など、後日請求(掛け売り)の顧客に対する請求書発行や入金管理をサポートします。
- ナイトクローズ(日次締め)処理: 一日の営業を締め切り、売上を確定させるナイトクローズ処理を自動化します。これにより、正確な日次売上レポートが作成されます。
この機能は、フロントスタッフの会計業務の負担を軽減し、経理部門の業務効率化にも大きく貢献します。
データ分析・レポート機能
データ分析・レポート機能は、PMSに蓄積された膨大なデータを経営に活かすための機能です。支配人や経営層にとって、ホテルの現状を正確に把握し、未来の戦略を立てるための羅針盤となります。
- 経営指標の可視化: 稼働率(OCC)、平均客室単価(ADR)、販売可能客室数あたり収益(RevPAR)といった、ホテル経営における重要業績評価指標(KPI)を自動で算出し、日別・月別・年別などのグラフや表で分かりやすく表示します。
- 多角的なデータ分析: 予約チャネル別の売上構成比、顧客の国籍や年齢層といった属性分析、リピート率の推移など、さまざまな切り口でデータを分析できます。
- レポート作成の自動化: 定型的なレポートをボタン一つで出力できるため、手作業での資料作成にかかる時間を大幅に削減できます。
この機能によって、経験や勘に頼る経営から、データに基づいた客観的で戦略的な経営(データドリブン経営)へとシフトすることが可能になります。
PMSの導入形態(クラウド型とオンプレミス型)
PMSを導入する際には、その提供形態を理解することが重要です。大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。自施設の規模や予算、IT環境に合わせて最適な形態を選ぶ必要があります。
項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
---|---|---|
初期費用 | 低い(サーバー不要) | 高い(サーバー購入・構築費) |
月額費用 | 発生する(サブスクリプション) | 原則なし(保守費用は別途) |
導入スピード | 速い(アカウント発行後すぐ) | 時間がかかる(構築・設定期間) |
アクセス場所 | インターネット環境があればどこでも可 | 原則として施設内からのみ |
カスタマイズ性 | 低い(標準機能が中心) | 高い(自由にカスタマイズ可能) |
メンテナンス | 不要(ベンダーが実施) | 必要(自社で対応) |
セキュリティ | ベンダーのセキュリティレベルに依存 | 自社のポリシーで高度な対策が可能 |
向いている施設 | 中小規模施設、新規開業施設 | 大規模施設、チェーンホテル |
クラウド型
クラウド型PMSは、インターネット経由でベンダーが提供するシステムを利用する形態です。自社でサーバーを保有する必要がなく、パソコンとインターネット環境さえあれば、Webブラウザや専用アプリからシステムにアクセスできます。近年、ホテル業界ではこちらのクラウド型が主流になりつつあります。
【メリット】
- 初期費用を抑えられる: サーバーや高価なソフトウェアライセンスを購入する必要がないため、導入時の初期投資を大幅に削減できます。多くのサービスが月額課金制(サブスクリプション)で提供されます。
- 導入がスピーディ: 物理的な機器の設置や複雑な設定作業が不要なため、契約から利用開始までの期間が非常に短いのが特徴です。
- 場所を選ばないアクセス: インターネットに接続できれば、ホテルの外からでもスマートフォンやノートPCで予約状況の確認や操作が可能です。支配人が出張先からでもリアルタイムの経営状況を把握できます。
- メンテナンスが不要: システムのアップデートやセキュリティ対策、サーバーの保守管理はすべてベンダー側で行われるため、専門のIT担当者がいない施設でも安心して利用できます。法改正などに対応した機能改善も自動的に行われます。
【デメリット】
- ランニングコストが発生する: 月額または年額の利用料が継続的にかかります。長期的に見ると、オンプレミス型よりも総コストが高くなる可能性があります。
- カスタマイズ性が低い: 基本的にはベンダーが提供する標準機能を利用するため、自社の特殊な業務フローに合わせた独自のカスタマイズは難しい場合が多いです。
- インターネット環境への依存: インターネット回線に障害が発生すると、システムが一切利用できなくなるリスクがあります。
- セキュリティの依存: 顧客情報などの重要なデータを外部のサーバーに預けることになるため、ベンダーのセキュリティ対策レベルに依存します。信頼性の高いベンダーを選ぶことが不可欠です。
クラウド型は、特に中小規模のホテルや旅館、新規開業の施設、IT専門のスタッフを配置するのが難しい施設におすすめの形態です。
オンプレミス型
オンプレミス型PMSは、自社の施設内にサーバーを設置し、ソフトウェアをインストールしてシステムを構築・運用する形態です。従来からある提供形態で、特に大規模なホテルや独自の要件を持つ施設で採用されてきました。
【メリット】
- 高いカスタマイズ性: 自社でシステムを保有するため、業務フローに合わせて機能を追加・改修するなど、柔軟なカスタマイズが可能です。既存の会計システムや基幹システムとの複雑な連携にも対応しやすいのが強みです。
- 高度なセキュリティ: 外部のネットワークから切り離した閉鎖的な環境でシステムを運用できるため、自社の厳格なセキュリティポリシーに準拠した対策を施すことが可能です。情報漏洩のリスクを最小限に抑えたい場合に適しています。
- ランニングコストが低い場合がある: 初期投資は高額になりますが、一度導入すれば月々の利用料は発生しません(別途、保守契約料はかかる場合が多い)。長期的な視点で見ると、クラウド型よりもトータルの費用が安くなるケースもあります。
【デメリット】
- 初期費用が高額: サーバー機器の購入費、ソフトウェアのライセンス費、システム構築費など、導入時に多額のコストがかかります。
- 導入に時間がかかる: サーバーの選定・設置からシステムのインストール、設定、テストまで、利用開始までに数ヶ月単位の期間を要することがあります。
- 専門知識を持つ人材が必要: サーバーの運用管理やシステムのメンテナンス、トラブル対応などを行うための専門的な知識を持つIT担当者(または外部委託)が不可欠です。
- メンテナンスの手間とコスト: システムのアップデートや法改正への対応、ハードウェアの老朽化対策などを自社で行う必要があり、その都度コストと手間が発生します。
オンプレミス型は、客室数が数百室を超える大規模ホテルや、複数の施設を運営するチェーンホテル、独自のサービスや複雑な業務フローを持つ施設など、高度なカスタマイズ性やセキュリティが求められる場合に適した選択肢となります。
PMSを導入する4つのメリット
PMSを導入することは、単に手作業をシステムに置き換えるだけではありません。ホテル運営の根幹に関わるさまざまな課題を解決し、経営全体にポジティブな影響をもたらします。ここでは、PMS導入によって得られる具体的なメリットを4つの側面に分けて詳しく解説します。
① フロント業務の効率化と生産性向上
PMS導入の最も直接的で分かりやすいメリットは、フロント業務の劇的な効率化です。フロントは「ホテルの顔」であり、ここの業務がスムーズに進むことは、スタッフの負担軽減と顧客満足度の両方に繋がります。
- チェックイン・チェックアウトの迅速化: 予約情報がシステムに正確に登録されているため、お客様を名前で検索するだけで、部屋の割り当てや料金の確認が瞬時に完了します。事前決済やオンラインチェックイン機能と連携すれば、フロントでの手続きは鍵の受け渡しだけ、といった運用も可能になり、お客様の待ち時間を大幅に短縮できます。
- 情報検索・確認作業の削減: お客様からの「空室はありますか?」という問い合わせに対し、手書きの台帳をめくることなく、システム画面で即座に回答できます。予約内容の変更や確認依頼にも、迅速かつ正確に対応できるようになります。
- スタッフの多能工化(マルチタスク): 煩雑な事務作業から解放されたスタッフは、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。例えば、お客様への周辺観光案内や、リピーターへのきめ細やかなおもてなしなど、「人でなければできないサービス」に集中することで、ホテル全体のサービス品質が向上します。また、一人のスタッフが予約受付からチェックイン、会計までをこなせるようになるため、少ない人数でも効率的なフロント運営が可能になります。
② 人為的ミスの削減
ホテル運営において、人為的なミスは信用の失墜に直結する深刻な問題です。特に予約や会計に関するミスは、お客様に多大な迷惑をかけるだけでなく、ホテルの収益にも直接的なダメージを与えます。PMSは、これらのヒューマンエラーをシステム的に防止する上で絶大な効果を発揮します。
- ダブルブッキングの撲滅: PMSとサイトコントローラーを連携させることで、客室在庫は常に自動で一元管理されます。電話予約が入れば全OTAの在庫が減り、OTAで予約が入ればPMSの在庫が減るため、原理的にダブルブッキングが発生しなくなります。これは、ホテル運営における長年の課題を根本から解決する大きなメリットです。
- 転記・入力ミスの防止: 予約サイトからの情報を手動で転記する作業がなくなるため、予約者名や宿泊日、料金の入力ミスが起こりません。これにより、当日お客様が来館された際に「予約が入っていない」といった最悪の事態を防ぐことができます。
- 会計ミスの防止: 宿泊費にレストラン利用料などを加算する際も、システム上で自動的に集計されるため、計算ミスや請求漏れがなくなります。正確な会計は、お客様からの信頼を得るための基本です。
- 情報の属人化の解消: 「この予約の詳細はベテランのAさんしか分からない」といった情報の属人化は、担当者不在時のトラブルの原因となります。PMSにすべての情報を集約することで、誰が対応しても同じ品質のサービスを提供できるようになり、業務の標準化が実現します。
③ 顧客満足度の向上
業務効率化やミス削減は、最終的に顧客満足度の向上という形で結実します。お客様は、スムーズで快適、そして心のこもった滞在体験を求めています。PMSは、その体験を縁の下で支える重要な役割を担います。
- 待ち時間のストレス軽減: スムーズなチェックイン・チェックアウトは、お客様のホテルに対する第一印象と最後の印象を決定づける重要な要素です。手続きの待ち時間が短縮されることで、お客様は旅の疲れを癒したり、次の予定に時間を有効活用したりできます。
- パーソナライズされたおもてなしの実現: PMSに蓄積された顧客情報(CRM機能)を活用することで、お客様一人ひとりに合わせたサービス提供が可能になります。
- (例1)リピーターのお客様に「〇〇様、再びお越しいただきありがとうございます。前回と同じお部屋をご用意いたしました」と声をかける。
- (例2)アレルギー情報を事前に把握し、レストランに共有しておくことで、お客様が改めて伝える手間を省く。
- (例3)記念日で宿泊されるお客様に、ささやかなお祝いのメッセージカードを用意する。
このような「自分のことを覚えてくれている」という体験は、お客様に深い感動と満足感を与え、強い信頼関係(ロイヤリティ)を築くことに繋がります。
- 一貫性のあるスムーズな対応: お客様からのリクエストや申し送り事項がシステム上で全部門に共有されるため、「フロントで伝えたことがレストランに伝わっていない」といった連携ミスが起こりません。どのスタッフに接しても、どの施設を利用しても、一貫した質の高いサービスを受けられるという安心感を提供できます。
④ データを活用した経営戦略の立案
PMSは、日々の業務を効率化するだけでなく、ホテル経営の舵取りを支援する強力な分析ツールでもあります。経験や勘に頼った経営から脱却し、客観的なデータに基づいた意思決定(データドリブン経営)を可能にします。
- 経営状況のリアルタイムな可視化: 稼働率、ADR(平均客室単価)、RevPAR(販売可能客室数あたり収益)といったKPIがダッシュボードで常に確認できるため、経営状態を正確かつタイムリーに把握できます。売上が目標に達していない場合でも、その原因を迅速に分析し、対策を講じることが可能です。
- 精度の高い需要予測: 過去の曜日別・月別・シーズン別の宿泊実績データを分析することで、将来の需要を高い精度で予測できます。これにより、「需要が高まる時期には料金を強気に設定し、閑散期にはお得なプランを打ち出して稼働を確保する」といった、戦略的なレベニューマネジメントが実現します。
- 効果的なマーケティング戦略の立案: どの予約サイトからの流入が多いのか(チャネル分析)、どのような顧客層(年齢、国籍、旅行目的など)が多いのか(顧客分析)といったデータを基に、ターゲットを絞った効果的な広告宣伝やプラン造成が可能になります。例えば、「20代女性の利用が多いから、SNS映えするようなレディースプランを企画しよう」といった具体的な施策に繋げることができます。
このように、PMSは単なる業務改善ツールにとどまらず、ホテルの収益性を高め、持続的な成長を支えるための経営基盤そのものとなるのです。
PMSを導入する3つのデメリット
PMS導入は多くのメリットをもたらしますが、一方で事前に理解しておくべきデメリットや注意点も存在します。これらを把握し、適切な対策を講じることが、導入を成功させるための鍵となります。
① 導入・運用にコストがかかる
PMSは無料ではなく、導入と運用には相応のコストが発生します。これは、特に予算が限られる中小規模の施設にとっては大きな課題となり得ます。
- 初期費用: オンプレミス型の場合、サーバー機器やネットワーク設備の購入費、ソフトウェアライセンス費、システム構築・設定に関わる人件費などで、数百万円から数千万円規模の初期投資が必要になることがあります。クラウド型は初期費用が低い、あるいは無料のサービスも多いですが、それでも初期設定のサポートなどをオプションで依頼すると費用が発生します。
- 月額・年額費用: クラウド型PMSは、月額数万円から数十万円の利用料が継続的に発生します。この料金は、施設の客室数や利用する機能の範囲によって変動します。
- その他のコスト: 導入後の保守サポート費用(特にオンプレミス型)、機能追加やカスタマイズに伴う費用、周辺機器(決済端末やスマートロックなど)との連携費用などが別途必要になる場合があります。
【対策】
これらのコストは、PMS導入によって得られる業務効率化による人件費削減や、収益向上効果と比較衡量する必要があります。「どれくらいの期間で投資を回収できるか」という費用対効果(ROI)の視点を持ち、事前にしっかりとシミュレーションすることが重要です。また、IT導入補助金など、国や自治体が提供する支援制度を活用することも有効な手段です。複数のベンダーから見積もりを取り、機能とコストのバランスが最も良いサービスを慎重に選定しましょう。
② システム障害・トラブルのリスク
便利なシステムである反面、それに依存することによるリスクも存在します。万が一、システムが停止してしまった場合、ホテルの運営に深刻な影響が及ぶ可能性があります。
- クラウド型のリスク: ベンダー側のサーバーに障害が発生した場合や、自施設のインターネット回線が不通になった場合、PMSにアクセスできなくなり、予約確認やチェックイン・アウト処理などが一切行えなくなる可能性があります。
- オンプレミス型のリスク: 自社で管理しているサーバーが故障した場合、復旧までに時間がかかると、その間の業務が完全にストップしてしまいます。また、停電などにも脆弱です。
- セキュリティリスク: 不正アクセスやサイバー攻撃により、顧客情報などの機密データが漏洩するリスクもゼロではありません。
【対策】
システム選定の段階で、ベンダーのサーバー稼働率の実績や、障害発生時のサポート体制(対応時間、復旧までの目標時間など)を必ず確認しましょう。データのバックアップがどのようになっているかも重要なチェックポイントです。また、万が一の事態に備え、システムが使えない状況でも最低限の業務を遂行できるようなマニュアル運用手順(例:当日の到着予定者リストを毎日印刷しておく、手書きの宿泊カードを用意しておくなど)を事前に準備し、スタッフに周知しておくことが極めて重要です。
③ スタッフにITリテラシーが求められる
新しいシステムを導入するということは、これまでの業務フローが大きく変わることを意味します。すべてのスタッフがスムーズに新しいシステムに適応できるとは限りません。
- 学習コスト: 全スタッフがPMSの操作方法を習得する必要があります。特に、これまでPC操作に慣れていない高齢のスタッフなどにとっては、大きな負担となる可能性があります。
- 導入初期の混乱: 新しいシステムへの移行期間中は、一時的に業務が混乱したり、かえって作業負荷が増大したりすることがあります。旧システムからのデータ移行作業も大きな負担となる場合があります。
- 変化への抵抗: 長年慣れ親しんだやり方を変えることに対して、心理的な抵抗を感じるスタッフが出てくる可能性もあります。導入の目的やメリットが十分に共有されていないと、「面倒なものが増えただけ」と捉えられ、活用が進まない恐れがあります。
【対策】
直感的で分かりやすいユーザーインターフェース(UI)のPMSを選ぶことが、この問題を軽減する第一歩です。デモや無料トライアル期間を活用し、実際に現場のスタッフに操作してもらい、使いやすさを評価してもらうのが良いでしょう。また、ベンダーが提供する導入時のトレーニングや、分かりやすいマニュアル、導入後のヘルプデスクなどのサポート体制が充実しているかも重要な選定基準です。
そして何よりも大切なのは、経営層が「なぜPMSを導入するのか」「導入によってスタッフの負担がどう軽減され、お客様にどのような価値を提供できるようになるのか」というビジョンを全スタッフに丁寧に説明し、全員で同じ目標に向かって取り組む姿勢を示すことです。
PMSを選ぶ際の6つのポイント
市場には多種多様なPMSが存在し、自施設にとって最適な一社を見つけ出すのは簡単なことではありません。ここでは、PMS選定で失敗しないために、必ずチェックすべき6つの重要なポイントを解説します。
① 宿泊施設の規模や業態に合っているか
すべてのPMSが、すべての宿泊施設に適しているわけではありません。それぞれのPMSには、得意とする施設の規模や業態があります。
- 施設規模: 50室以下の小規模施設と、500室以上の大規模ホテルでは、求められる機能や処理能力が全く異なります。小規模施設であれば、シンプルでコストを抑えたクラウド型が適していることが多い一方、大規模施設では、複数部門との連携や高度なデータ分析が可能な高機能なPMSが必要となります。
- 施設の業態:
- シティホテル/ビジネスホテル: 効率的なフロント業務、法人契約管理、レベニューマネジメント機能が重要になります。
- リゾートホテル: レストランやスパ、アクティビティ施設との連携、顧客単価を高めるためのアップセル/クロスセル機能が求められます。
- 旅館: 部屋食や貸切風呂の時間管理、仲居さんのアサイン、日本旅館特有の複雑な料金体系に対応できる機能が必要です。
- 民泊/ホステル/ゲストハウス: 無人運営を支援するスマートロック連携や、ドミトリー(相部屋)のベッド単位での在庫管理機能などが特徴となります。
自施設の客室数、施設のタイプ、提供するサービス内容を明確にし、それに特化した機能を持つ、あるいは導入実績が豊富なPMSを選ぶことが成功の第一歩です。
② 必要な機能が搭載されているか
「PMSの主な機能」の章で解説した基本機能は多くのPMSに搭載されていますが、その詳細な仕様や、プラスアルファの機能は製品によって大きく異なります。
まずは、自施設にとって「絶対に譲れない必須機能(Must-have)」と、「あれば便利な機能(Nice-to-have)」をリストアップしましょう。例えば、「団体予約の管理機能は必須」「顧客へのメールマガジン配信機能があると嬉しい」といった具合です。
多機能なPMSは魅力的ですが、使わない機能が多ければ、その分コストが無駄になってしまいます。逆に、コストを重視しすぎて必要な機能が足りないと、導入後に業務効率が上がらず、結局は手作業でのカバーが必要になるなど、本末転倒な結果になりかねません。自社の業務フローを棚卸しし、本当に必要な機能を見極めることが重要です。
③ クラウド型かオンプレミス型か
これはPMS選定における根本的な選択肢です。先の章で解説した通り、それぞれに明確なメリット・デメリットがあります。
- クラウド型を選ぶべきケース:
- 初期費用をできるだけ抑えたい。
- 専任のIT担当者がいない。
- スピーディに導入したい。
- 施設の外部からでもシステムにアクセスしたい。
- オンプレミス型を選ぶべきケース:
- 自社の業務に合わせた大規模なカスタマイズが必要。
- 非常に高度なセキュリティ要件がある。
- 長期的な視点でTCO(総所有コスト)を管理したい。
- 安定した社内ネットワーク環境がある。
自社の予算、人材、セキュリティポリシー、そして将来の事業展開(施設の拡張など)も見据えて、どちらの形態がより適しているかを総合的に判断しましょう。
④ 操作性は良いか
PMSは、毎日、多くのスタッフが利用するシステムです。そのため、誰にとっても直感的で分かりやすく、ストレスなく使える操作性は極めて重要な要素です。
- 画面デザイン(UI): 情報が整理されていて見やすいか。ボタンやメニューの配置は分かりやすいか。
- 操作手順(UX): 目的の操作を完了するまでに、クリック数が少なく、スムーズにたどり着けるか。
- レスポンス速度: 画面の切り替えやデータの読み込みは速いか。
これらの点は、製品のカタログやウェブサイトを見ているだけでは分かりません。必ずデモンストレーションを依頼したり、無料トライアルを利用したりして、実際にシステムに触れてみましょう。その際は、支配人や予約担当者だけでなく、フロントスタッフやPC操作に不慣れなスタッフなど、さまざまな立場の従業員に試してもらい、意見を聞くことが大切です。
⑤ 外部システムと連携できるか
現代のホテル運営は、PMS単体で完結するものではありません。サイトコントローラーをはじめ、さまざまな外部システムと連携させることで、初めて業務の完全な自動化と効率化が実現します。連携性は、PMS選定における最重要ポイントの一つと言っても過言ではありません。
- サイトコントローラー: どのサイトコントローラーと連携可能か。連携はスムーズでリアルタイムに行われるか。
- POSシステム: レストランや売店のPOSレジと連携し、会計情報をPMSに自動で取り込めるか。
- BMS(宴会管理システム): 宴会部門を持つ施設の場合、BMSとのシームレスな連携は必須です。
- スマートロック/キーレスシステム: お客様のスマートフォンをルームキーにしたり、暗証番号を発行したりするシステムと連携できるか。
- 会計ソフト: PMSの売上データを、利用している会計ソフトに簡単に出力・連携できるか。
- その他: 事前決済システム、チャットボット、レビュー管理ツールなど。
現在利用しているシステム、および将来的に導入を検討しているシステムとの連携可否を、事前にベンダーに必ず確認しましょう。API(Application Programming Interface)を公開しており、柔軟な連携に対応できるかも重要な指標となります。
⑥ サポート体制は充実しているか
システムは導入して終わりではありません。運用中に発生する疑問や、万が一のトラブルに迅速かつ的確に対応してくれるサポート体制は、安心してPMSを使い続けるための生命線です。
- 導入時のサポート: 初期設定の代行、データ移行の支援、スタッフ向けの操作トレーニングなど、スムーズな導入を支援してくれるか。
- 導入後のサポート:
- 対応窓口: 電話、メール、チャットなど、どのような問い合わせ方法があるか。
- 対応時間: 24時間365日対応か、平日日中のみか。ホテルは24時間稼働しているため、夜間や休日でも対応してくれる体制が望ましいです。
- 対応品質: 専門のスタッフが的確に回答してくれるか。過去の導入施設の評判なども参考にしましょう。
特にシステム障害などの緊急時には、サポート体制の質が事業継続に直結します。料金だけでなく、いざという時に頼りになるパートナーとして信頼できるベンダーかどうかを見極めることが大切です。
PMSとサイトコントローラーの一体型システムもおすすめ
これまでPMSとサイトコントローラーは、それぞれ別の専門ベンダーが提供するシステムを連携させて利用するのが一般的でした。しかし近年、PMSの機能とサイトコントローラーの機能を併せ持った「一体型システム」を提供するベンダーが増えてきており、新たな選択肢として注目を集めています。
この一体型システムは、特に中小規模の宿泊施設や、これから新規に開業する施設にとって多くのメリットがあります。
【一体型システムのメリット】
- 完全なデータ一元化とリアルタイム性の向上:
別々のシステムを連携させる場合、データの同期にわずかなタイムラグが発生する可能性がゼロではありません。一体型システムでは、予約情報も在庫情報も元から一つのデータベースで管理されているため、情報の齟齬が原理的に発生せず、完全なリアルタイムでの情報更新が保証されます。これにより、オーバーブッキングのリスクを極限まで低減できます。 - 導入・運用の手間削減:
PMSとサイトコントローラーを別々に契約し、連携設定を行う手間が一切不要です。導入プロセスがシンプルになり、よりスピーディに運用を開始できます。システムが一つにまとまっているため、操作を覚えるのも比較的容易です。 - コスト削減の可能性:
二つのシステムを個別に契約するよりも、一体型システムを一つ契約する方が、月額のトータルコストを安く抑えられる場合があります。初期費用やサポート費用も一本化されるため、コスト管理がしやすくなります。 - サポート窓口の一本化:
「この問題はPMSベンダーに聞くべきか、サイトコントローラーベンダーに聞くべきか」といった、問い合わせ時の“たらい回し”が発生しません。何か問題が起きた際の問い合わせ先が一つで済むため、問題解決までの時間が短縮され、精神的な負担も軽減されます。
【一体型システムの注意点・デメリット】
一方で、一体型システムには注意すべき点もあります。
- 機能の専門性:
「餅は餅屋」という言葉があるように、専門のベンダーはそれぞれの分野で長年のノウハウを蓄積しています。一体型システムの場合、PMS機能は非常に高機能でもサイトコントローラー機能が限定的であったり、その逆であったりする可能性があります。PMSとサイトコントローラー、両方の機能が自施設の要求レベルを満たしているかを慎重に見極める必要があります。 - ベンダーロックインのリスク:
システムを一つに集約するということは、そのベンダーへの依存度が高まることを意味します。将来的に、例えばPMSだけを別の製品に乗り換えたいと思っても、簡単には移行できなくなる「ベンダーロックイン」の状態に陥るリスクがあります。
【一体型システムがおすすめの施設】
以上のメリット・デメリットを踏まえると、一体型システムは以下のような施設に特におすすめです。
- 新規開業の宿泊施設: ゼロからシステムを構築する際に、シンプルで導入しやすい一体型は有力な選択肢です。
- 中小規模のホテル・旅館: 専任のIT担当者がおらず、できるだけシンプルにシステムを管理・運用したい施設。
- コストを重視する施設: システム導入・運用のトータルコストを抑えたい場合。
一体型システムは非常に便利で強力な選択肢ですが、導入を検討する際は、それぞれの機能の詳細をしっかりと確認し、自施設の運営スタイルや将来の展望に合っているかを総合的に判断することが重要です。
【2024年版】おすすめのPMS(ホテル管理システム)10選
ここでは、日本国内で導入実績が豊富で、評価の高い主要なPMS(ホテル管理システム)を10製品紹介します。それぞれに特徴や得意分野がありますので、自施設に合ったシステムを選ぶ際の参考にしてください。
※掲載されている情報は、各公式サイトの情報を基に作成しています。最新の詳細な情報については、各サービスの公式サイトでご確認ください。
製品名 | 提供企業 | 主な特徴 | 導入形態 |
---|---|---|---|
TAP | 株式会社タップ | 大規模ホテル・リゾート向け。カスタマイズ性が高い。 | オンプレミス/クラウド |
NEHOPS | NECネクサソリューションズ株式会社 | 大規模ホテル・チェーン向け。NECグループの総合力。 | オンプレミス/クラウド |
OPERA Cloud | 日本オラクル株式会社 | 世界トップシェア。グローバルスタンダードなクラウドPMS。 | クラウド |
AirHost ONE | 株式会社エアホスト | PMS・サイトコントローラー・予約エンジン一体型。無人運営に強み。 | クラウド |
Beds24 | Beds24 GmbH | 高機能なサイトコントローラーがベース。カスタマイズ性が高い。 | クラウド |
HOTEL SMART | 株式会社構造計画研究所 | 中小規模施設向け。シンプルで使いやすいUI/UX。 | クラウド |
innto | 株式会社SQUEEZE | スマートロック連携などDX化に強み。ブティックホテルやアパートメントホテル向け。 | クラウド |
suitebook | SQUEEZE Inc. | 1室から利用可能。小規模施設・分散型ホテル向け。 | クラウド |
Wincal | 株式会社ナバック | 旅館に特化した機能が豊富。老舗の安心感。 | オンプレミス/クラウド |
TEMAIRAZU | 手間いらず株式会社 | サイトコントローラーが有名だが、PMS機能も提供。一体型も可能。 | クラウド |
① TAP
株式会社タップが提供する「TAP」は、国内のホテルシステム市場で高いシェアを誇るPMSです。特に大規模なシティホテルやリゾートホテル、チェーンホテルでの導入実績が豊富です。オンプレミス型で長年の実績を築いてきましたが、近年はクラウド版も提供しています。高いカスタマイズ性と、BMS(宴会管理システム)やPOSなど基幹システムとの連携に強く、ホテル全体の情報を統合管理したい施設に適しています。
参照:株式会社タップ公式サイト
② NEHOPS
NECネクサソリューションズが提供する「NEHOPS」は、NECグループの技術力を背景に持つ、信頼性の高いホテル基幹システムです。大規模ホテルを中心に長年の導入実績があり、宿泊、宴会、レストラン会計、顧客管理などをトータルでサポートします。顔認証技術を活用したスマートチェックインなど、先進的なソリューションとの連携も特徴です。オンプレミス型とクラウド型の両方を提供しており、施設の規模や要件に応じた柔軟な導入が可能です。
参照:NECネクサソリューションズ株式会社公式サイト
③ OPERA Cloud
日本オラクルが提供する「OPERA Cloud」は、世界中のホテルで圧倒的なシェアを持つグローバルスタンダードなPMSです。外資系ホテルやラグジュアリーホテルでの採用が多く、多言語・多通貨に対応しているため、インバウンド需要の高い施設に最適です。クラウドネイティブな設計で、モバイル対応やオープンAPIによる高い拡張性を誇ります。世界基準の高度なレベニューマネジメント機能や分析機能を求める施設に向いています。
参照:日本オラクル株式会社公式サイト
④ AirHost ONE
株式会社エアホストが提供する「AirHost ONE」は、PMS、サイトコントローラー、予約エンジンが一つになったオールインワンシステムです。特に、スマートロック連携によるセルフチェックインや、自動メッセージ配信など、省人化・無人化運営を支援する機能に強みを持っています。民泊や小規模ホテルから中規模ホテルまで幅広く対応可能で、業務効率化とDXを推進したい施設に人気の高いサービスです。
参照:株式会社エアホスト公式サイト
② Beds24
※見出し番号はユーザーの指示通り「②」としています。
ドイツ発の「Beds24」は、もともとは高機能なサイトコントローラーとして世界中で利用されていますが、PMSとしての機能も非常に充実しています。最大の特徴は、圧倒的なカスタマイズ性の高さです。自動化ルールを細かく設定でき、施設の独自の運用フローに柔軟に合わせることが可能です。料金は客室数に応じた手頃な価格設定で、小規模施設から利用しやすい点も魅力です。APIも公開されており、外部ツールとの連携も柔軟に行えます。
参照:Beds24公式サイト
⑥ HOTEL SMART
株式会社構造計画研究所が提供する「HOTEL SMART」は、中小規模のホテルや旅館向けに開発されたクラウド型PMSです。「シンプルで、誰でも使いやすい」ことをコンセプトにしており、直感的な操作性が高く評価されています。必要な機能に絞り込むことで低コストを実現しつつ、サイトコントローラー機能や予約エンジンも標準搭載。IT専門のスタッフがいない施設でも安心して導入・運用できる手厚いサポート体制も特徴です。
参照:株式会社構造計画研究所公式サイト
⑦ innto
株式会社SQUEEZEが提供する「innto」は、ホテルや旅館のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために設計された次世代のクラウドPMSです。PMS、サイトコントローラー、予約エンジンが一体となっており、スマートロック連携やモバイルチェックイン、多言語対応など、現代のホテル運営に求められる機能が充実しています。特にブティックホテルやデザインホテル、アパートメントホテルなど、新しい宿泊体験の提供を目指す施設に適しています。
参照:innto(株式会社SQUEEZE)公式サイト
⑧ suitebook
「suitebook」も株式会社SQUEEZEが提供するサービスで、こちらは1室からでも利用可能な、小規模施設や分散型ホテルに特化したクラウド管理ツールです。アパートメントホテルや民泊、バケーションレンタルなど、複数の物件を遠隔で管理するような業態に最適化されています。予約管理から清掃管理、メッセージの自動化まで、省人化運営に必要な機能がコンパクトにまとまっています。
参照:suitebook(SQUEEZE.Inc)公式サイト
⑨ Wincal
株式会社ナバックが提供する「Wincal」は、30年以上の歴史を持つ老舗のPMSです。特に旅館での導入実績が豊富で、部屋食の時間管理、仲居さんへの指示書作成、貸切風呂の予約管理など、日本旅館特有の複雑なオペレーションに対応したきめ細やかな機能が強みです。長年のノウハウに基づいた安定したシステムと、手厚いサポート体制に定評があります。オンプレミス型とクラウド型の両方に対応しています。
参照:株式会社ナバック公式サイト
⑩ TEMAIRAZU
手間いらず株式会社が提供する「TEMAIRAZU」は、国内トップクラスのシェアを誇るサイトコントローラーとして非常に有名ですが、PMS機能を持つ製品(『TEMAIRAZU』シリーズ PMS)も提供しています。サイトコントローラーとの自動連携を前提としており、予約・在庫管理の効率化に特化しています。すでにTEMAIRAZUのサイトコントローラーを利用している施設が、シームレスな連携を求めてPMS機能を導入するケースなどにおすすめです。
参照:手間いらず株式会社公式サイト
まとめ
本記事では、ホテル運営の基幹システムであるPMS(Property Management System)について、その役割、機能、導入のメリット・デメリット、そして選び方のポイントまで、幅広く解説してきました。
PMSは、もはや単なる予約管理ツールではありません。予約から客室管理、顧客情報、会計、経営分析まで、ホテル運営に関わるあらゆる情報を一元化し、業務効率化、人為的ミスの削減、顧客満足度の向上、そしてデータに基づいた経営戦略の立案を実現するための、戦略的な経営基盤です。
記事の要点を改めて整理します。
- PMSの役割: ホテル運営の神経中枢として、予約・客室・顧客・会計などの情報を一元管理する。
- 関連システムとの違い: サイトコントローラーは「外部販売チャネル管理」、BMSは「宴会部門管理」と、それぞれ専門領域が異なるが、PMSとの連携が極めて重要。
- 導入のメリット: ①業務効率化、②ミス削減、③顧客満足度向上、④データドリブン経営の実現。
- 導入のデメリット: ①コスト、②システム障害リスク、③スタッフの学習コスト。これらは事前の対策で軽減可能。
- 選び方のポイント: ①施設規模・業態、②必要機能、③導入形態(クラウド/オンプレミス)、④操作性、⑤外部連携性、⑥サポート体制の6点を総合的に評価する。
近年では、クラウド化の進展により、かつては大規模ホテルに限られていた高機能なPMSが、中小規模のホテルや旅館、さらには民泊施設でも手軽に導入できるようになりました。また、AIを活用した需要予測の高度化や、IoT機器との連携によるスマートホテル化など、PMSは今もなお進化を続けています。
自施設に最適なPMSを導入することは、目の前の業務を楽にするだけでなく、従業員の働きがいを高め、お客様に選ばれ続けるホテルへと成長するための、未来への最も重要な投資の一つです。
この記事を参考に、ぜひ自施設の課題と目標を明確にし、理想のパートナーとなるPMSを見つけてください。多くのベンダーが無料のデモや相談会を実施していますので、まずは気軽に問い合わせてみることから始めてみてはいかがでしょうか。