現代のホテル経営において、テクノロジーの活用は避けて通れない重要な課題です。特に、日々の複雑な業務を効率化し、顧客満足度を高めるためには、適切なITシステムの導入が不可欠と言えるでしょう。その中核をなすのが、ホテル管理システム(PMS:Property Management System)です。
この記事では、ホテル管理システム(PMS)の基本的な概念から、その主要な機能、導入によるメリット、さらには自社に最適なシステムを選ぶための比較ポイントまで、網羅的に解説します。PMSの導入を検討しているホテル・宿泊施設の経営者や担当者の方は、ぜひ本記事を参考に、自社の課題解決と事業成長に繋がる一歩を踏み出してください。
目次
ホテル管理システム(PMS)とは?
ホテル管理システム(PMS)とは、Property Management Systemの略称で、ホテルや旅館などの宿泊施設における基幹業務を一元的に管理するためのソフトウェアシステムです。具体的には、予約管理、客室管理、顧客情報管理、フロント会計といったフロントオフィス業務から、売上分析やレポート作成といったバックオフィス業務まで、ホテル運営に関わる多岐にわたる情報を統合的に扱います。
従来、これらの業務は電話やFAX、手書きの台帳、あるいは個別のExcelファイルなど、アナログな手法で管理されることが多くありました。しかし、この方法では情報の入力・転記に多大な手間がかかるだけでなく、ヒューマンエラーによるダブルブッキングや情報の不整合といった問題が発生しやすいという大きな課題を抱えていました。また、宿泊予約サイト(OTA:Online Travel Agent)の普及により、複数の販売チャネルからの予約をリアルタイムで正確に管理する必要性が高まったことも、PMSの重要性を一層際立たせる背景となっています。
PMSを導入することで、これまでバラバラに管理されていた情報を一元化し、業務プロセスを自動化・効率化できます。これにより、スタッフは煩雑な事務作業から解放され、本来注力すべきである「おもてなし」などの付加価値の高い業務に集中できるようになります。
さらに、PMSは単なる業務効率化ツールに留まりません。システムに蓄積された顧客情報や売上データを分析することで、より効果的なマーケティング戦略やレベニューマネジメント(需要予測に基づいた価格設定戦略)の立案が可能になります。例えば、「どのような顧客層が」「どの予約サイトを経由して」「いつ頃宿泊する傾向があるのか」といったデータを可視化することで、ターゲットを絞ったプロモーションや、収益を最大化するための最適な価格設定が行えるようになります。
このように、ホテル管理システム(PMS)は、人手不足の解消、生産性の向上、販売機会の最大化、そして顧客満足度の向上といった、現代のホテル経営が直面する様々な課題を解決するための強力なソリューションとして、その存在感を増しています。小規模なブティックホテルから大規模なリゾートホテルまで、施設の規模や業態を問わず、安定した経営基盤を築く上で不可欠なITインフラと言えるでしょう。
ホテル管理システム(PMS)の主な機能
ホテル管理システム(PMS)は、ホテル運営を円滑に進めるための多彩な機能を搭載しています。ここでは、その中でも特に重要となる主要な6つの機能について、それぞれ詳しく解説します。これらの機能を理解することで、PMSが具体的にどのような業務を効率化し、経営に貢献するのかをイメージできるでしょう。
予約管理
予約管理は、PMSの中核をなす最も基本的な機能です。ホテル・宿泊施設の収益の源泉である「予約」に関するあらゆる情報を一元的に管理し、業務の効率化と機会損失の防止を実現します。
主な役割は、自社ホームページや電話予約、そして複数の宿泊予約サイト(OTA)からの予約情報を自動で集約し、一つの画面で管理することです。従来のように、各OTAの管理画面に個別にログインして予約を確認し、手作業で台帳やExcelに転記する必要がなくなります。これにより、入力ミスや転記漏れといったヒューマンエラーを劇的に削減できます。
特に重要なのが、オーバーブッキング(二重予約)の防止機能です。PMSは、いずれかのチャネルで予約が入ると、他のすべてのチャネルの在庫(残室数)を瞬時に自動で調整します。例えば、あるOTAで1室予約が入った場合、即座にPMSの在庫が1室減り、その情報が連携している他のOTAや自社サイトにも反映されます。これにより、「空室だと思って予約を受け付けたのに、実際には満室だった」という最悪の事態を防ぎ、顧客からの信頼を損なうリスクを回避します。
また、予約情報の変更やキャンセル処理もPMS上で簡単に行えます。顧客からの電話やメールによる変更依頼にも迅速に対応でき、変更後の空室状況もリアルタイムで各販売チャネルに反映されるため、キャンセル待ちの顧客への案内や再販の機会を逃しません。予約からチェックイン、チェックアウトまでの一連の流れをシームレスに管理することで、フロント業務の大幅な効率化に貢献します。
顧客情報管理
顧客情報管理機能は、一度宿泊した顧客の情報をデータベースとして蓄積・活用するための機能です。単なる連絡先リストではなく、顧客一人ひとりに合わせた質の高いサービス(おもてなし)を提供し、リピーターを育成するための重要な基盤となります。
PMSには、宿泊者の氏名、年齢、性別、連絡先といった基本情報に加え、宿泊履歴、利用したプラン、支払金額、食事のアレルギー情報、禁煙・喫煙の希望、誕生日や記念日といった詳細な情報まで記録できます。これらの情報は、顧客が次回宿泊する際に非常に役立ちます。
例えば、リピーターの顧客が予約した際に、過去の宿泊履歴から「窓からの眺めが良い高層階の部屋を好む」「アレルギーがあるため特定の食材を避ける必要がある」といった情報をフロントスタッフが事前に把握できます。これにより、顧客がリクエストする前に先回りして部屋をアサインしたり、レストランに情報を共有したりと、パーソナライズされたきめ細やかな対応が可能となり、顧客に「自分のことを覚えてくれている」という特別な満足感を与えることができます。
さらに、蓄積された顧客データはマーケティング活動にも活用できます。「過去1年間に2回以上宿泊した顧客」や「記念日月に宿泊した顧客」といった特定の条件で顧客を抽出し、限定プランの案内や誕生日のお祝いメッセージなどを記載したメールマガジンを送付するなど、効果的なリピート促進策を実施できます。優良顧客(VIP)を特定し、特別なサービスを提供することで、長期的なロイヤリティを醸成することも可能です。
客室管理
客室管理(ルームインジケータ)機能は、ホテル内の全客室の状況をリアルタイムで可視化し、効率的な部屋割りと清掃管理を実現する機能です。フロント、客室清掃、予約担当など、異なる部門のスタッフが常に最新の客室情報を共有できるため、部門間のスムーズな連携が促進されます。
この機能では、各客室が「空室(Vacant)」「滞在中(Occupied)」「清掃中(Dirty)」「清掃完了(Clean)」「点検中(Out of Order)」といったステータスごとに色分けされて表示されるのが一般的です。フロントスタッフは、この画面を見るだけで、どの部屋がチェックイン可能で、どの部屋が清掃待ちかを一目で把握できます。
これにより、チェックイン時の部屋割り(ルームアサイン)業務が大幅に効率化されます。顧客の要望(ツインルーム、禁煙室、眺望の良い部屋など)に合わせて、利用可能な部屋を迅速に探し出し、割り当てることができます。アーリーチェックインやレイトチェックアウトの希望にも、客室の状況を見ながら柔軟に対応可能です。
また、客室清掃スタッフとの連携においても絶大な効果を発揮します。顧客がチェックアウトすると、PMS上でその部屋のステータスが自動的に「清掃中」に切り替わります。清掃スタッフはタブレット端末などからその情報を確認し、効率的な順番で清掃作業に入ることができます。清掃が完了すれば、ステータスを「清掃完了」に更新し、その情報が即座にフロントに共有されるため、フロントスタッフは清掃が終わった部屋から優先的に次の顧客を案内できます。これにより、顧客を待たせる時間を最小限に抑え、回転率を高めることができます。
フロント会計
フロント会計機能は、チェックインからチェックアウトまでの金銭のやり取りを正確かつ迅速に処理するための機能です。宿泊料金の計算、追加利用分の精算、請求書・領収書の発行など、フロントにおける会計業務全般をサポートします。
チェックイン時には、予約情報に基づいて宿泊料金が自動で計算・表示されます。前受金の処理や、法人契約での後日請求など、多様な支払いパターンに対応可能です。
滞在中には、レストランでの飲食代、売店での購入品、マッサージなどの追加サービスの利用料金を「部屋付け」として処理し、PMSに集計できます。これにより、チェックアウト時にすべての利用料金をまとめて精算できるため、顧客にとっても利便性が高まります。
チェックアウト時には、宿泊料金と滞在中の追加利用料金を合算した最終的な請求額が自動で計算されます。現金、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済など、多様化する決済手段に対応しているPMSも多く、スムーズな精算処理を実現します。また、複数の宿泊者で支払いを分ける「分割会計」や、会社名での領収書発行など、顧客の細かい要望にも柔軟に対応できます。
この機能により、手計算による間違いがなくなり、会計処理のスピードが向上するため、チェックアウト時の混雑緩和にも繋がります。会計業務の正確性と効率性を高めることで、顧客満足度の向上とスタッフの負担軽減を両立させることができます。
販売・売上管理
販売・売上管理機能は、ホテル経営の状況を数値で正確に把握し、データに基づいた意思決定を支援するための機能です。日々の売上データを自動で集計・分析し、経営状態を可視化します。
この機能を使えば、日別、月別、年別といった期間での売上高や宿泊者数、客室稼働率などを簡単に確認できます。さらに、ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)やRevPAR(Revenue Per Available Room:販売可能客室1室あたりの収益)といった、ホテル経営における重要なKPI(重要業績評価指標)も自動で算出されます。これらの指標を定点観測することで、経営が順調に進んでいるのか、あるいは何らかの問題が発生しているのかを早期に発見できます。
また、予約経路別の売上分析も可能です。「どのOTAからの予約が最も多いのか」「自社サイト経由の予約はどのくらいか」「各チャネルの利益率はどうなっているか」といった分析を通じて、手数料の高いOTAへの依存度を下げ、利益率の高い自社サイトからの直接予約を増やすための戦略を立てることができます。
これらのデータは、レベニューマネジメントを実践する上で不可欠です。過去の同時期の稼働率や予約のペース(ブッキングカーブ)を分析し、将来の需要を予測します。そして、その予測に基づいて、需要が高い日には価格を上げ、低い日には価格を下げたり限定プランを打ち出したりするなど、収益を最大化するための動的な価格設定を行うことができます。
データ分析・レポート作成
データ分析・レポート作成機能は、販売・売上管理機能をさらに一歩進め、PMSに蓄積された膨大なデータを多角的に分析し、経営戦略の立案に役立つレポートを自動で作成する機能です。
例えば、顧客データを分析することで、どのような属性(年齢、性別、居住地など)の顧客が多いのか、リピート率はどのくらいか、といった顧客像を明らかにできます。これにより、メインターゲット層に向けた施設改善やサービス向上策を検討したり、新たな顧客層を開拓するためのマーケティング施策を考えたりすることができます。
また、日報や月報、年報といった定型レポートをボタン一つで出力できるため、レポート作成にかかる時間を大幅に削減できます。作成されたレポートは、経営会議の資料としてそのまま活用したり、各部門の目標設定や実績評価に利用したりすることができます。
高度なPMSの中には、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールと連携したり、同様の機能を内蔵していたりするものもあります。これにより、より自由度の高いデータ分析や、グラフやチャートを用いた直感的なデータの可視化が可能になります。勘や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータという根拠を持って経営判断を下す「データドリブン経営」を実現するための強力な武器となります。
ホテル管理システム(PMS)の提供形態
ホテル管理システム(PMS)は、そのシステムの提供形態によって大きく「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類に分けられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の規模や予算、求める機能によってどちらが適しているかが異なります。両者の違いを正しく理解し、最適な選択をすることが重要です。
比較項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
---|---|---|
導入コスト | 低い(初期費用無料の場合も) | 高い(サーバー購入費など) |
運用コスト | 月額・年額費用が発生 | 低い(保守・メンテナンス費用のみ) |
導入スピード | 早い(最短即日) | 時間がかかる(数ヶ月単位) |
カスタマイズ性 | 低い(標準機能が中心) | 高い(自社仕様に開発可能) |
アクセス場所 | インターネット環境があればどこでも | 原則として施設内のみ |
メンテナンス | ベンダー側で実施 | 自社で対応が必要 |
セキュリティ | ベンダーのセキュリティレベルに依存 | 自社で構築・管理できる |
システムの更新 | 自動で最新版にアップデート | 自社で対応が必要 |
クラウド型
クラウド型PMSは、インターネット経由でベンダーが提供するサーバー上のシステムにアクセスして利用する形態です。近年、多くのPMSがこの形態を採用しており、ホテル業界の主流となりつつあります。
最大のメリットは、導入コストを大幅に抑えられることです。自社で高価なサーバーやネットワーク機器を用意する必要がなく、初期費用が無料または数万円程度で済むサービスも少なくありません。月々の利用料金(サブスクリプション)を支払うことで、常に最新の機能を利用できます。この手軽さから、特に初期投資を抑えたい中小規模のホテルや、新規開業の施設に適しています。
また、導入までのスピードが非常に速い点も魅力です。契約後、アカウントが発行されればすぐに利用を開始できるサービスもあり、ビジネスチャンスを逃しません。インターネット環境さえあれば、パソコンやタブレット、スマートフォンなど、様々なデバイスからいつでもどこでもシステムにアクセスできるため、経営者が外出先からホテルの状況を確認したり、スタッフが自宅から予約状況をチェックしたりすることも可能です。
システムのアップデートやメンテナンス、セキュリティ対策はすべてベンダー側で行われるため、ホテル側は専門的な知識を持つIT担当者を置く必要がなく、システムの維持管理に関する負担が大幅に軽減されます。
一方で、デメリットも存在します。クラウド型は多くのユーザーが共通のシステムを利用するため、オンプレミス型に比べてカスタマイズの自由度は低くなる傾向があります。自社独自の特殊な業務フローにシステムを完全に合わせることは難しい場合があります。また、月額料金が発生し続けるため、長期的に見ると総支払額がオンプレミス型を上回る可能性もあります。さらに、システムの利用はインターネット接続が前提となるため、通信障害が発生するとシステムが利用できなくなるリスクも考慮しておく必要があります。
オンプレミス型
オンプレミス型PMSは、自社の施設内にサーバーを設置し、ソフトウェアをインストールして利用する形態です。古くからある提供形態で、特に大規模なホテルや、独自の要件を持つリゾート施設などで採用されてきました。
最大のメリットは、その高いカスタマイズ性にあります。自社の業務フローやブランドイメージに合わせて、機能の追加や画面デザインの変更など、細部にわたるカスタマイズが可能です。既存の基幹システムや会計システムなど、他の社内システムとの連携も柔軟に行えます。
セキュリティ面においても、自社のネットワーク内でシステムを運用するため、外部からの不正アクセスリスクを低減できます。顧客情報という機密性の高いデータを自社で厳重に管理したいと考える施設にとっては、大きな安心材料となります。一度システムを構築してしまえば、月々の利用料金は発生せず、年間の保守費用のみとなるため、ランニングコストを抑えられる可能性があります。
しかし、オンプレミス型には高いハードルも存在します。最大のデメリットは、高額な初期費用です。サーバーやネットワーク機器の購入費、ソフトウェアのライセンス費、そしてシステムの構築・設定にかかる費用など、導入には数百万円から数千万円規模の投資が必要となるケースも珍しくありません。
また、システムの導入には要件定義から設計、開発、テストといった工程を経るため、数ヶ月単位の期間が必要です。導入後も、サーバーの運用・保守やセキュリティ対策、システムのアップデートなどは自社で行う必要があり、専門知識を持つIT担当者の配置や、外部の専門業者との保守契約が不可欠です。万が一システムに障害が発生した場合の復旧作業も自社の責任となるため、その負担は決して小さくありません。
近年はクラウド型の機能性やセキュリティが向上したことで、オンプレミス型を選択するメリットは相対的に小さくなりつつありますが、高度なカスタマイズ性やクローズドな環境での運用を重視する場合には、依然として有力な選択肢となります。
ホテル管理システム(PMS)を導入する3つのメリット
ホテル管理システム(PMS)の導入は、単にアナログな業務をデジタルに置き換えるだけではありません。業務効率の向上から集客力の強化、そして顧客満足度の向上まで、ホテル経営全体にポジティブな影響をもたらします。ここでは、PMS導入によって得られる代表的な3つのメリットについて、具体的に解説します。
① フロント業務の効率化
PMS導入による最も直接的で分かりやすいメリットが、フロント業務の大幅な効率化です。フロントはホテルの「顔」であり、予約受付からチェックイン・アウト、会計、問い合わせ対応まで、業務が集中する部署です。ここの業務が滞ると、顧客満足度の低下やスタッフの疲弊に直結します。
PMSは、これらの煩雑な業務を自動化・システム化することで、スタッフの負担を劇的に軽減します。例えば、予約管理においては、複数のOTAや自社サイトからの予約情報が自動で一元管理されるため、手作業での情報転記が不要になり、入力ミスやダブルブッキングといった致命的なエラーを根本からなくすことができます。これにより、予約管理にかけていた時間を大幅に削減し、より生産的な業務に時間を割けるようになります。
チェックイン・チェックアウト業務も同様です。PMSを導入すれば、予約情報が事前にシステムに登録されているため、顧客が到着した際に名前を検索するだけで、宿泊情報や料金が即座に表示されます。これにより、手続きにかかる時間が短縮され、顧客を待たせることなくスムーズに部屋へ案内できます。最近では、顧客自身がタブレットでチェックイン手続きを行える「セルフチェックインシステム」と連携するPMSも増えており、さらなる効率化と非接触対応のニーズに応えています。
また、PMSはホテル内の情報共有ハブとしての役割も果たします。客室の清掃状況がリアルタイムで更新されるため、フロントは清掃完了後の部屋を即座に把握し、次の顧客を案内できます。レストランや売店での利用料金も自動で集計されるため、チェックアウト時の会計もスムーズです。部門間の連携が円滑になることで、ホテル全体のオペレーションが最適化され、組織としての生産性が向上します。
② 集客力の向上
PMSは、バックオフィスの業務効率化だけでなく、売上に直結する「集客力」の向上にも大きく貢献します。これは、PMSが持つデータ管理・分析機能と、外部システムとの連携によって実現されます。
まず、多くのPMSは「サイトコントローラー」というシステムと連携できます。サイトコントローラーは、複数のOTAや自社サイトの在庫・料金を一元的に調整するツールです。PMSとサイトコントローラーを連携させることで、PMSで管理している残室数が、すべての販売チャネルにリアルタイムで自動的に反映されます。これにより、1室でも空室があれば、それをすべてのチャネルで販売できるようになり、販売機会の損失を最小限に抑えることができます。手動での在庫調整では発生しがちだった「売り止め」による機会損失を防ぎ、稼働率の向上に直結します。
次に、PMSに蓄積された販売データを活用することで、データに基づいたレベニューマネジメントの実践が可能になります。過去の販売実績や予約のペース、周辺のイベント情報などを分析し、将来の需要を予測します。そして、需要が高まると予測される日は強気の価格設定を、需要が低い日は割引プランを提供するなど、動的な価格戦略を展開することで、収益の最大化を図ります。勘や経験に頼った価格設定から脱却し、客観的なデータに基づいて収益性を高めることができます。
さらに、顧客情報管理機能を活用したリピーターの育成も集客力向上の重要な要素です。一度宿泊した顧客のデータを分析し、ターゲットを絞ったメールマガジンの配信や、特別なプロモーションの案内を行うことで、再訪を促します。新規顧客の獲得コストは、リピーター維持コストの数倍かかると言われています。PMSを活用して既存顧客との関係を強化することは、安定的で収益性の高いホテル経営の基盤となります。
③ 顧客満足度の向上
業務効率化と集客力向上というメリットは、最終的に「顧客満足度の向上」という最も重要な価値に繋がります。
フロント業務が効率化されることで、スタッフは事務作業に追われる時間が減り、顧客一人ひとりと向き合う時間的な余裕と精神的なゆとりが生まれます。チェックイン・アウトがスムーズに行われることはもちろん、顧客からの質問やリクエストに対して、より丁寧で心のこもった対応ができるようになります。この「おもてなし」に集中できる環境こそが、顧客に「またこのホテルに泊まりたい」と思わせる重要な要素です。
また、PMSの顧客情報管理機能を活用することで、よりパーソナライズされたサービスを提供できます。例えば、以前宿泊した際に「羽毛アレルギーがある」と申告した顧客に対し、次回の宿泊時には先回りして化学繊維の寝具を用意しておく。記念日で宿泊する顧客に、サプライズでメッセージカードを用意する。こうした「期待を超える」サービスは、顧客に深い感動と満足感を与え、ホテルのファンになってもらうための強力な武器となります。
さらに、業務プロセス全体がスムーズになることで、顧客が滞在中に感じるストレスが軽減されます。例えば、清掃の完了を待たされることなく部屋に入れたり、チェックアウト時の会計が迅速に終わったりすることは、小さなことのように見えて、顧客のホテルに対する印象を大きく左右します。
このように、PMSは単なる業務ツールではなく、スタッフが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整え、データに基づいた質の高いサービス提供を可能にすることで、総合的な顧客満足度を引き上げるための戦略的投資と言えるでしょう。
ホテル管理システム(PMS)を導入する際の3つの注意点・デメリット
ホテル管理システム(PMS)はホテル経営に多くのメリットをもたらしますが、その導入は良いことばかりではありません。導入を成功させるためには、事前に注意すべき点や潜在的なデメリットを十分に理解し、対策を講じておくことが不可欠です。ここでは、PMS導入時に直面しがちな3つの課題について解説します。
① 導入・運用コストがかかる
最も現実的な課題が、導入および運用にかかるコストです。PMSは無料ではなく、一定の投資が必要になります。このコストは、システムの提供形態(クラウド型かオンプレミス型か)や機能、施設の規模によって大きく異なります。
オンプレミス型の場合、初期費用が非常に高額になります。サーバーやネットワーク機器の購入、ソフトウェアライセンスの取得、そして自社の要件に合わせたシステム開発や設定作業などを含めると、数百万円から数千万円規模の初期投資が必要となることも珍しくありません。導入後も、システムの保守・メンテナンス費用が年間で発生します。
クラウド型の場合、初期費用は比較的安価で、無料または数万円から数十万円程度で済むことが多いです。しかし、その代わりに月額または年額の利用料金(ランニングコスト)が継続的に発生します。この料金は、客室数に応じた従量課金制や、利用する機能に応じたプラン制が一般的です。客室数が多ければ多いほど、また高機能なプランを選択すればするほど、月々の負担は大きくなります。短期的には手軽に見えても、5年、10年と長期的に利用し続けると、総支払額がオンプレミス型を上回る可能性も考慮しなければなりません。
これらのコストを捻出するためには、当然ながら事前の予算確保が必要です。そして、その投資がどれだけの効果(リターン)を生むのか、費用対効果(ROI)を慎重に見極める必要があります。「導入によって人件費がどれだけ削減できるか」「稼働率が何%向上し、売上がいくら増える見込みか」といった具体的な数値を試算し、投資に見合う価値があるかを判断することが重要です。単に「便利そうだから」という理由だけで導入すると、コストだけがかさんで経営を圧迫する結果になりかねません。
② スタッフの教育が必要になる
新しいシステムを導入するということは、既存の業務フローが大きく変わることを意味します。これまで慣れ親しんだ手書きの台帳やExcelでの管理から、まったく新しいシステムの操作へと移行するには、スタッフ全員が新しい操作方法を学び、慣れるための時間と労力が必要です。
特に、ITツールに不慣れなスタッフや、長年同じ方法で業務を行ってきたベテランスタッフにとっては、この変化が大きなストレスとなる可能性があります。操作方法が分からず戸惑ったり、かえって時間がかかってしまったりと、導入直後は一時的に業務効率が低下することも覚悟しておかなければなりません。
この移行をスムーズに進めるためには、周到な準備と丁寧な教育が不可欠です。まず、導入するPMSベンダーが提供する研修プログラムやマニュアルを最大限に活用しましょう。導入支援の一環として、ベンダーの担当者が直接ホテルに来て操作説明会を開いてくれる場合もあります。
それに加え、ホテル独自の運用ルールを定めたマニュアルを作成することも有効です。例えば、「予約変更はこの手順で行う」「部屋付け会計はこのように入力する」といった具体的な操作方法を図やスクリーンショット付きでまとめることで、スタッフがいつでも参照できる状態にしておきます。また、スタッフの中から特定のメンバーを「推進役」として任命し、他のスタッフからの質問に答えられるようにしておくのも良い方法です。
なぜこのシステムを導入するのか、その目的やメリットを全スタッフに共有し、理解と協力を得ることも忘れてはなりません。「楽をしたいから」ではなく、「お客様にもっと良いサービスを提供するため」「みんなの負担を減らして、より働きやすい環境を作るため」といった前向きなメッセージを伝え、組織全体で前向きに取り組む雰囲気を作ることが、導入成功の鍵となります。
③ システム障害のリスクがある
どれだけ優れたシステムであっても、システム障害やサーバーダウンといったトラブルが発生するリスクをゼロにすることはできません。もしPMSが停止してしまったら、予約の確認、チェックイン・アウト、会計といったホテルの基幹業務がすべてストップしてしまい、現場は大きな混乱に見舞われます。
特にクラウド型の場合、自社に原因がなくても、ベンダー側のサーバーやネットワークに障害が発生すると、サービスが利用できなくなります。また、自社のインターネット回線に問題が生じた場合も同様です。このような事態に備え、事前に対応策を検討しておくことが極めて重要です。
まず、PMS選定の段階で、ベンダーのサーバーの安定性やセキュリティ対策、障害発生時のサポート体制をしっかりと確認しましょう。SLA(サービス品質保証)で稼働率が保証されているか、24時間365日のサポート窓口があるか、障害からの復旧時間はどのくらいか、といった点は必ずチェックすべき項目です。
その上で、万が一システムが使えなくなった場合のバックアッププラン(BCP:事業継続計画)を策定しておく必要があります。例えば、当日の予約リストや宿泊者リストを毎日印刷しておく、あるいはオフラインでも閲覧できる形式でPCに保存しておくといった対策が考えられます。また、会計ができなくなった場合に備えて、手書きの領収書や電卓を用意しておくことも重要です。
システム障害は滅多に起こることではないかもしれませんが、「起こりうるもの」として備えておくことで、いざという時の被害を最小限に食い止め、顧客への影響を抑えることができます。システムに完全に依存するのではなく、リスク管理の一環としてアナログな手法も準備しておくという心構えが求められます。
ホテル管理システム(PMS)と連携できる主なシステム
ホテル管理システム(PMS)は、単体で利用するだけでも大きな効果を発揮しますが、その真価は他の専門システムと連携させることでさらに高まります。PMSを中核としたITインフラを構築することで、データの流れがスムーズになり、ホテル運営全体の自動化と最適化が加速します。ここでは、PMSと連携可能な代表的なシステムを紹介します。
サイトコントローラー
サイトコントローラーは、PMSとの連携において最も重要かつ一般的なシステムです。楽天トラベル、じゃらんnet、Booking.comといった複数の宿泊予約サイト(OTA)や自社予約サイトの在庫・料金・予約情報を一元管理するツールです。
PMSとサイトコントローラーを連携させると、PMSで管理している残室数が、連携しているすべての販売チャネルにリアルタイムで自動的に反映されます。どこかのチャネルで1室予約が入ると、サイトコントローラー経由で即座にPMSの在庫が更新され、その情報が他の全チャネルにも通知されます。これにより、手作業での在庫調整が不要になり、オーバーブッキングのリスクを限りなくゼロに近づけるとともに、販売機会の損失を防ぎます。また、OTAからの予約情報は自動でPMSに取り込まれるため、予約内容の転記作業も不要になります。この連携は、現代のホテル運営において不可欠と言えるでしょう。
ブッキングエンジン
ブッキングエンジンとは、自社の公式ホームページに設置するインターネット予約システムのことです。自社サイトからの予約(直接予約)は、OTA経由の予約と違って販売手数料がかからないため、ホテルの利益率向上に大きく貢献します。
PMSとブッキングエンジンを連携させることで、ブッキングエンジンからの予約情報が自動的にPMSに登録され、在庫管理もリアルタイムで行われます。顧客は24時間365日、いつでも自社サイトから最新の空室状況を確認し、予約を完了できます。魅力的な自社サイトと使いやすいブッキングエンジンを用意し、PMSと連携させることで、利益率の高い直接予約の比率を高めていくことが、安定した経営の鍵となります。
スマートロック
スマートロックは、物理的な鍵の代わりに暗証番号やQRコード、スマートフォンアプリなどで客室のドアを開閉できるシステムです。近年、人手不足の解消や非対面・非接触ニーズの高まりから、導入するホテルが増えています。
PMSとスマートロックを連携させると、顧客のチェックイン時に、その予約専用の暗証番号などを自動で発行できます。発行された番号はメールなどで顧客に自動送信されるため、フロントでの鍵の受け渡しが不要になります。これにより、フロント業務の省力化はもちろん、顧客はフロントに立ち寄ることなく直接客室へ向かうことができ、スムーズなチェックイン体験を提供できます。特に、無人運営や省人化を目指すホテルにとっては必須の連携システムと言えます。
POSシステム
POS(Point of Sale)システムは、レストランやバー、売店、スパなど、ホテル館内の付帯施設における販売情報を管理するシステムです。いわゆるレジシステムのことです。
PMSとPOSシステムを連携させることで、これらの付帯施設での利用料金を「部屋付け」として処理し、そのデータを自動でPMSに集約できます。顧客は滞在中、財布を持ち歩くことなく施設を利用でき、チェックアウト時に宿泊費とまとめて一括で精算できます。ホテル側も、手作業での伝票処理や転記ミスがなくなり、会計業務の正確性と効率が向上します。顧客の利便性向上と、会計業務の効率化を同時に実現できる連携です。
CRM(顧客管理システム)
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客との関係を管理し、LTV(顧客生涯価値)を最大化するためのシステムです。多くのPMSにも顧客情報管理機能は備わっていますが、専門のCRMシステムは、より高度な顧客分析やマーケティングオートメーション機能を持っています。
PMSに蓄積された顧客の基本情報や宿泊履歴データをCRMに連携させることで、より詳細な顧客セグメンテーション(例:「東京都在住で、年2回以上、記念日利用する30代カップル」など)が可能になります。そして、そのセグメントごとにパーソナライズされたメールマガジンを自動配信したり、特別なキャンペーンを案内したりと、一人ひとりの顧客に響くきめ細やかなマーケティング施策を展開できます。PMSの顧客データを「おもてなし」だけでなく「戦略的なマーケティング」に活用するための強力な連携です。
会計ソフト
会計ソフトは、企業の経理業務を管理するためのソフトウェアです。売上や経費の計上、仕訳、帳簿作成、決算書の作成などを行います。
PMSの売上データを会計ソフトに連携させることで、日々の売上仕訳を自動で作成できます。手作業でPMSの売上レポートを見ながら会計ソフトにデータを入力する手間が省け、経理業務の大幅な効率化と入力ミスの防止に繋がります。特に、バックオフィス部門の人数が限られている中小規模のホテルにとっては、非常に価値のある連携と言えるでしょう。フロントからバックオフィスまで、データが一気通貫で流れる仕組みを構築することで、会社全体の生産性を向上させます。
ホテル管理システム(PMS)の選び方・比較ポイント6選
数多くのベンダーから様々なホテル管理システム(PMS)が提供されており、どの製品を選べば良いのか迷ってしまうことも少なくありません。導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためには、自社の状況や目的に照らし合わせて、慎重に比較検討することが重要です。ここでは、PMSを選ぶ際に必ず確認すべき6つの比較ポイントを解説します。
① 自社の規模や課題に合っているか
最も重要なのは、PMSが自社の規模や業態、そして抱えている課題にマッチしているかという点です。PMSには、小規模な旅館や民宿、民泊施設向けのシンプルなものから、数百室規模のシティホテルやリゾートホテル向けの多機能なものまで、様々な種類があります。
例えば、客室数が10室程度の小規模な施設であれば、高機能で高価なPMSを導入しても、多くの機能が使われずに無駄になってしまう可能性があります。むしろ、操作がシンプルで、必要な機能(予約管理、サイトコントローラー連携など)に絞られた、低コストなクラウド型PMSの方が適しているでしょう。
一方で、複数のレストランや宴会場を持つ大規模なホテルであれば、POSシステムや宴会予約システムとの連携機能、詳細なデータ分析機能、高度なレベニューマネジメント支援機能などが不可欠になります。
また、「なぜPMSを導入するのか?」という目的を明確にすることも重要です。「ダブルブッキングをなくしたい」「手作業による予約管理の負担を減らしたい」という課題が最優先であれば、予約管理とサイトコントローラー連携の安定性が高い製品を選ぶべきです。「リピーターを増やしたい」という目的であれば、顧客情報管理やメール配信機能が充実している製品が候補になります。「無人運営を実現したい」のであれば、スマートロックやセルフチェックインシステムとの連携がスムーズな製品が必須です。
自社の「現状」と「目指す姿」を明確にし、そのギャップを埋めてくれるPMSはどれか、という視点で製品を絞り込んでいきましょう。
② スタッフが使いやすい操作性か
PMSは毎日使うシステムです。どれだけ高機能であっても、現場のスタッフにとって操作が複雑で分かりにくいものでは、かえって業務効率を下げてしまい、定着しません。
特に、ITツールの利用に慣れていないスタッフが多い場合は、直感的に操作できる分かりやすいユーザーインターフェース(UI)であることが極めて重要です。専門用語が多すぎず、視覚的に次に行うべき操作が分かるようなデザインになっているかを確認しましょう。
この操作性を確認する最も確実な方法は、デモや無料トライアルを実際に試してみることです。営業担当者の説明を聞くだけでなく、必ず自分たちの手でシステムを触ってみましょう。その際には、支配人やマネージャーだけでなく、実際にシステムを最も多く利用することになるフロントスタッフや予約担当スタッフにも操作してもらい、意見を聞くことが大切です。現場のスタッフが「これなら使えそう」「分かりやすい」と感じるシステムでなければ、導入は成功しません。無料トライアル期間中に、日々の業務をシミュレーションしてみる(実際の予約情報を入力してみる、チェックイン・アウト処理を試してみるなど)ことをお勧めします。
③ 必要な外部システムと連携できるか
前述の通り、PMSは他のシステムと連携することで、その価値を最大限に発揮します。そのため、自社が現在利用している、あるいは将来的に導入を検討している外部システムとスムーズに連携できるかは、非常に重要な選定ポイントです。
特に、サイトコントローラーとの連携は必須と言っても過言ではありません。自社が利用しているサイトコントローラーと連携可能か、あるいはPMSベンダーが推奨するサイトコントローラーは何かを必ず確認しましょう。PMSとサイトコントローラーが一体型になっている製品もあります。
その他にも、ブッキングエンジン、スマートロック、POSシステム、会計ソフトなど、連携させたいシステムがあれば、その連携実績の有無や、連携にかかる追加費用などを事前に確認しておく必要があります。API(Application Programming Interface)を公開しており、柔軟なシステム連携に対応できるPMSは、将来的な拡張性が高いと言えます。自社のIT戦略全体を見据え、中核となるPMSがハブとして機能できるかを評価しましょう。
④ サポート体制は充実しているか
PMSはホテルの基幹業務を支えるシステムであり、万が一トラブルが発生した際には、迅速な対応が求められます。そのため、ベンダーのサポート体制が充実しているかは、安心してシステムを運用していく上で極めて重要な要素です。
確認すべきポイントは多岐にわたります。まず、導入時のサポートです。初期設定やデータ移行などをどこまで手伝ってくれるのか、操作方法のトレーニングは実施してくれるのかなどを確認します。
次に、運用開始後のサポートです。問い合わせ窓口は電話、メール、チャットなど何に対応しているか。そして、サポートの対応時間は自社の営業時間に合っているかが重要です。ホテルは24時間365日稼働しているため、深夜や早朝、土日祝日にトラブルが発生する可能性も十分にあります。理想は24時間365日対応のサポート体制ですが、そうでなくても、夜間や休日の緊急連絡先が用意されているかなどを確認しておくと安心です。
また、よくある質問をまとめたFAQページや、オンラインマニュアルが整備されているかもチェックしましょう。自己解決できる仕組みが整っていると、些細な疑問点をすぐに解消できて便利です。
⑤ セキュリティ対策は万全か
PMSは、宿泊者の氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報といった極めて機密性の高い個人情報を大量に取り扱います。万が一、これらの情報が外部に漏洩するようなことがあれば、顧客からの信頼を失い、ホテルの存続に関わる重大な問題に発展しかねません。
そのため、PMSのセキュリティ対策が万全であるかを厳しくチェックする必要があります。特にクラウド型PMSを選ぶ際は、自社のデータを預けることになるベンダーのセキュリティレベルが非常に重要になります。
具体的には、以下のような点を確認しましょう。
- 通信の暗号化: サーバーとの通信がSSL/TLSによって暗号化されているか。
- データの暗号化: データベースに保存されている個人情報が暗号化されているか。
- アクセス制限: IPアドレスによるアクセス制限や、二段階認証などの機能があるか。
- 第三者認証の取得: 情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格である「ISO/IEC 27001(ISMS認証)」や、プライバシーマークなどを取得しているか。これらの認証は、組織として情報セキュリティに適切に取り組んでいることの客観的な証明となります。
ベンダーの公式サイトや資料でセキュリティポリシーを確認し、不明な点は納得がいくまで質問することが大切です。
⑥ 費用対効果は見合っているか
最後に、導入にかかるコストと、それによって得られる効果(メリット)が見合っているか、つまり費用対効果を総合的に判断します。
まずは、費用の総額を正確に把握しましょう。初期費用(導入設定費、データ移行費など)と、月額・年額のランニングコスト(ライセンス料、保守サポート料など)をすべて洗い出します。オプション機能や外部システム連携に追加費用がかかる場合もあるため、見積もりを詳細に確認することが重要です。
次に、導入によってどのような効果が期待できるかを具体的に試算します。例えば、「予約管理業務が1日あたり2時間削減できる→人件費◯円の削減」「サイトコントローラー連携による販売機会増で、稼働率が3%向上→売上◯円の増加」といったように、できるだけ定量的に評価します。
これらのコストと効果を比較し、投資を回収できる見込みがあるかを判断します。単純に価格が安いという理由だけで選ぶのではなく、「自社の課題を解決し、将来の成長に繋がる価値を提供してくれるか」という視点で、長期的な費用対効果を評価することが、賢明なPMS選びの鍵となります。
おすすめのホテル管理システム(PMS)10選
ここでは、日本国内で利用可能な、おすすめのホテル管理システム(PMS)を10製品紹介します。それぞれに特徴や強みがあり、ターゲットとする施設の規模や業態も異なります。自社の状況と照らし合わせながら、比較検討の参考にしてください。
※掲載している情報は、各公式サイトで公開されている情報を基にしていますが、機能や料金は変更される可能性があるため、必ず最新の情報を公式サイトでご確認ください。
PMS名 | 提供会社 | 特徴 | ターゲット |
---|---|---|---|
ねっぱん!++ | 株式会社クリップス | サイトコントローラー一体型。予約管理から顧客管理まで一気通貫。 | 小規模~中規模のホテル・旅館 |
TEMAIRAZU | 手間いらず株式会社 | 業界トップクラスのサイトコントローラー。PMS機能も提供。 | 幅広い規模の宿泊施設 |
AirHost PMS | 株式会社エアホスト | 民泊からホテルまで対応。スマートロック連携など無人化支援に強み。 | 民泊、アパートメントホテル、小規模ホテル |
tapAppli | 株式会社タップ | 大規模ホテル向け。多機能でカスタマイズ性が高く、基幹システムとして機能。 | 大規模ホテル、リゾートホテル、チェーンホテル |
innto | G-Tech株式会社 | シンプルで直感的な操作性。必要な機能に絞り低価格を実現。 | 中小規模のホテル・旅館 |
Staysee | 合同会社Staysee | 無料プランあり。小規模施設や個人事業主でも導入しやすい。 | 小規模施設、ゲストハウス、個人事業主 |
Beds24 | Beds24株式会社 | ドイツ発。400以上の予約チャネルに対応。多機能で柔軟な設定が可能。 | グローバルに展開する施設、多様な販売網を持つ施設 |
suitebook | SQUEEZE Inc. | 無人・省人化運営に特化。自社開発のスマートロック等と連携。 | 無人・省人化を目指すホテル、スマートホテル |
The Metris | 株式会社ダイナテック | 30年以上の実績。安定性と信頼性が高く、中規模以上のホテルで多数導入。 | 中規模~大規模ホテル |
L-inn | 株式会社リクリエ | 無人ホテル運営支援に特化。チェックインパッドやスマートロックと連携。 | 無人ホテル、省人化施設 |
① ねっぱん!++
「ねっぱん!++」は、株式会社クリップスが提供する、サイトコントローラーとPMSが一体となったクラウド型システムです。サイトコントローラーとしての高い知名度と実績を誇り、その機能をベースにPMS機能が拡張されています。最大の特長は、予約情報がサイトコントローラーからPMSへ自動で連携されるため、二重管理の手間がなく、予約から在庫管理、顧客管理までが一気通貫で行える点です。操作画面もシンプルで分かりやすく、PC操作に不慣れな方でも導入しやすいと評判です。小規模から中規模のホテルや旅館で、まずは予約管理の効率化から始めたいという施設に最適な選択肢の一つです。
(参照:ねっぱん!++公式サイト)
② TEMAIRAZU
「TEMAIRAZU」は、手間いらず株式会社が提供するシステムで、こちらも業界トップクラスのシェアを持つサイトコントローラーとして有名です。PMS機能も「TEMAIRAZUシリーズ」として提供しており、サイトコントローラーとのシームレスな連携が強みです。国内外の多くのOTAや卸売会社、自社予約システムと連携しており、幅広い販売チャネルを管理できます。豊富な連携先と安定したシステム稼働に定評があり、販売チャネルの拡大を積極的に行いたい施設や、システムの信頼性を重視する施設に適しています。
(参照:TEMAIRAZU公式サイト)
③ AirHost PMS
「AirHost PMS」は、株式会社エアホストが提供する、民泊運営からホテル運営まで幅広く対応可能なクラウド型PMSです。特に、スマートロックやセルフチェックインシステムとの連携、清掃管理機能などが充実しており、施設の無人・省人化運営を強力にサポートします。予約管理やサイトコントローラー機能はもちろん、自動メッセージ送信機能や収支管理機能も搭載しており、運営業務全般を効率化できます。小規模なホテルやアパートメントホテル、分散型の宿泊施設などを運営しているオーナーにおすすめです。
(参照:AirHost PMS公式サイト)
④ tapAppli
「tapAppli」は、株式会社タップが提供するホテルシステムです。同社は大規模ホテルやリゾートホテル向けのオンプレミス型PMSで高い実績を持ちますが、「tapAppli」はそのノウハウを活かして開発されたクラウド型アプリケーションです。フロント業務だけでなく、レストランのオーダーエントリーシステムや宴会管理システムなど、ホテル全体の運営を支援する多彩なアプリケーション群で構成されており、必要なものだけを選んで導入できます。大規模施設で求められる複雑な要件にも対応できる機能性と拡張性が魅力です。
(参照:株式会社タップ公式サイト)
⑤ innto
「innto」は、G-Tech株式会社が提供するクラウド型PMSです。「シンプルで、誰でも使いやすい」ことをコンセプトに開発されており、直感的で洗練されたユーザーインターフェースが特長です。予約管理、顧客管理、部屋割りなど、ホテル運営に必要な基本機能を過不足なく搭載しつつ、低価格な料金体系を実現しています。サイトコントローラーとの連携も可能で、中小規模のホテルや旅館が、初めてPMSを導入する際の選択肢として人気があります。
(参照:innto公式サイト)
⑥ Staysee
「Staysee」は、合同会社Stayseeが提供するクラウド型PMSです。最大の特長は、客室数10室までなら無料で利用できるフリープランがあることです。有料プランも非常にリーズナブルな価格設定で、小規模な宿泊施設やゲストハウス、個人事業主でも手軽に導入できます。無料でありながら、予約管理、サイトコントローラー連携、顧客管理、清掃管理など基本的な機能は一通り揃っており、コストをかけずに業務のデジタル化を始めたい施設にとって、非常に魅力的な選択肢です。
(参照:Staysee公式サイト)
⑦ Beds24
「Beds24」は、ドイツで開発された世界的に利用されているクラウド型PMSおよびチャネルマネージャー(サイトコントローラー)です。国内外400以上の予約チャネルに対応しており、グローバルな集客を目指す施設にとって強力なツールとなります。機能が非常に豊富で、料金設定や予約ルールのカスタマイズ性が高く、施設の独自の戦略に合わせた柔軟な運用が可能です。多機能な分、初期設定がやや複雑な面もありますが、世界基準のシステムを使いこなしたいという意欲のある施設に適しています。
(参照:Beds24公式サイト)
⑧ suitebook
「suitebook」は、株式会社SQUEEZEが開発・提供するクラウド型PMSです。ホテルのDX(デジタルトランスフォーメーション)と省人化運営の実現にフォーカスしており、自社開発のスマートチェックインシステムやスマートロックとの連携に強みを持っています。予約からチェックアウト、さらには事後対応まで、一連のオペレーションを自動化・効率化するための機能が充実しています。次世代型のスマートホテルや無人ホテル運営を目指す事業者から注目を集めています。
(参照:suitebook公式サイト)
⑨ The Metris
「The Metris」は、株式会社ダイナテックが提供するクラウド型PMSです。ダイナテック社は30年以上にわたりホテルシステムを開発してきた老舗であり、その豊富な実績とノウハウが詰まっています。システムの安定性と信頼性の高さに定評があり、中規模から大規模のホテルで数多くの導入実績を誇ります。フロント会計や顧客管理といった基幹機能が充実しているのはもちろん、オプションで宴会予約管理やレストランPOSシステムとの連携も可能です。実績と安心感を重視する施設におすすめです。
(参照:The Metris公式サイト)
⑩ L-inn
「L-inn」は、株式会社リクリエが提供する、無人・省人ホテル運営に特化したクラウド型PMSです。自社開発のスマートチェックインシステム「L-inn Pad」や各種スマートロックとの連携を前提に設計されており、予約から鍵の発行、チェックインまでを完全自動化できます。宿泊者名簿の取得や本人確認もシステム上で完結するため、フロントにスタッフを配置しない運営形態を実現可能です。今後ますます需要が高まる無人・省人化オペレーションを構築したい施設に最適なシステムです。
(参照:L-inn公式サイト)
ホテル管理システム(PMS)の導入費用・料金相場
ホテル管理システム(PMS)の導入を検討する上で、最も気になるのが費用でしょう。導入費用や月々のランニングコストは、提供形態(クラウド型/オンプレミス型)や施設の規模(客室数)、必要な機能によって大きく変動します。ここでは、それぞれの料金体系と費用の相場について解説します。
費用項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
---|---|---|
初期費用 | 0円 ~ 50万円程度 | 300万円 ~ 数千万円 |
月額費用 | 5,000円 ~ 数十万円(客室数・機能による) | なし(別途、年間の保守費用が発生) |
保守費用 | 月額費用に含まれることが多い | 年間、初期費用の10~15%程度 |
クラウド型の料金体系
近年主流となっているクラウド型PMSは、初期費用を抑えて導入できる点が大きな特徴です。料金体系は主に「初期費用」と「月額費用」で構成されます。
初期費用
初期費用は、システムの利用を開始するために最初に支払う費用のことです。これには、アカウントの発行手数料、システムの基本設定サポート、既存データの移行作業などが含まれます。
相場としては、0円から50万円程度と幅があります。ベンダーによっては「初期費用無料キャンペーン」などを実施していることもあります。ただし、手厚い導入サポートやデータ移行を依頼する場合は、その分費用が高くなる傾向があります。
月額費用
月額費用は、システムを継続して利用するためのライセンス料やサーバー利用料、サポート費用などを含んだランニングコストです。多くのクラウド型PMSでは、以下のいずれか、または両方を組み合わせた料金体系を採用しています。
- 客室数に応じた従量課金制: ホテルの客室数に応じて月額料金が変動するモデルです。例えば、「1室あたり月額500円」や「~30室まで月額2万円」といった料金設定です。施設の規模に応じた公平な価格設定と言えます。
- 機能に応じたプラン制: 利用できる機能の範囲によって複数のプラン(例:スタンダード、プロ、エンタープライズ)が用意されており、上位のプランほど料金が高くなります。基本的な機能だけでよければ安価なプランを、高度な分析機能や外部連携機能が必要な場合は高価なプランを選ぶことになります。
月額費用の相場は、施設の規模や選択するプランによって大きく異なりますが、小規模施設であれば月額5,000円~3万円程度、中規模施設であれば月額3万円~10万円程度、大規模施設になると月額10万円以上になることもあります。これに加えて、サイトコントローラーやスマートロックなど、外部システムとの連携に別途オプション料金が必要な場合もあります。
オンプレミス型の料金体系
オンプレミス型PMSは、自社でサーバーを構築するため、高額な初期投資が必要となります。その代わり、月々の利用料金は発生しません。料金体系は主に「初期費用」と「年間保守費用」で構成されます。
初期費用
初期費用は、システムを構築するために必要なすべてのコストを含みます。主な内訳は以下の通りです。
- ハードウェア費用: サーバー、PC、ネットワーク機器などの購入費用。
- ソフトウェアライセンス費用: PMSソフトウェアの買い切りライセンス費用。
- 開発・構築費用: 自社の要件に合わせてシステムを設計・開発・設定するための費用。カスタマイズの度合いが高ければ高いほど、この費用は増大します。
これらの費用を合計すると、初期費用は最低でも300万円程度から、大規模なカスタマイズを行う場合は数千万円に達することもあります。
年間保守費用
オンプレミス型では月額費用はかかりませんが、システムを安定して運用していくために、ベンダーと年間保守契約を結ぶのが一般的です。この保守費用には、ソフトウェアのアップデート提供、障害発生時の技術サポート、定期的なメンテナンスなどが含まれます。
保守費用の相場は、一般的に初期費用の10%~15%程度と言われています。例えば、初期費用が1,000万円だった場合、年間の保守費用は100万円~150万円となります。
クラウド型とオンプレミス型、どちらを選ぶかは、初期投資にかけられる予算、ランニングコストの考え方、そして長期的な視点での総所有コスト(TCO)を総合的に比較して判断することが重要です。
ホテル管理システム(PMS)を導入する流れ
ホテル管理システム(PMS)の導入を成功させるためには、計画的なステップを踏むことが重要です。思いつきで進めるのではなく、目的の明確化から比較検討、導入後の運用までを見据えたプロセスを設計しましょう。ここでは、一般的なPMS導入の流れを5つのステップに分けて解説します。
課題や導入目的を明確にする
最初のステップは、「なぜPMSを導入したいのか」という根本的な動機を明確にすることです。これが曖昧なままだと、製品選びの軸がぶれてしまい、導入後に「期待した効果が得られない」という結果になりかねません。
現場のスタッフや経営層にヒアリングを行い、現在抱えている課題を具体的に洗い出しましょう。
- 「OTAからの予約転記に時間がかかりすぎている」
- 「ダブルブッキングが頻繁に発生し、顧客対応に追われている」
- 「リピーターの情報を管理できず、おもてなしに活かせていない」
- 「正確な売上データを把握するのに手間がかかる」
- 「フロント業務が忙しく、スタッフの残業が多い」
これらの課題をリストアップし、PMS導入によって何を解決したいのか、どのような状態を目指すのか、という「導入目的」を設定します。例えば、「予約管理業務の工数を50%削減する」「ダブルブッキングをゼロにする」「リピーター率を10%向上させる」といったように、できるだけ具体的で測定可能な目標を立てることが理想です。この目的が、後の製品選定における重要な判断基準となります。
複数の製品を比較検討する
導入目的が明確になったら、次はその目的を達成できるPMSを探します。インターネット検索や業界の展示会、同業者からの情報などを参考に、候補となる製品をいくつかリストアップします。最初から1社に絞るのではなく、最低でも3~5社程度の製品を比較検討することをお勧めします。
各社のウェブサイトや資料を請求し、「選び方・比較ポイント6選」で解説した項目(自社の規模や課題への適合性、操作性、連携性、サポート、セキュリティ、費用)に沿って情報を整理し、比較表を作成すると分かりやすいでしょう。この段階で、自社の要件に合わない製品は候補から外し、2~3社程度に絞り込みます。
デモや無料トライアルを試す
候補を絞り込んだら、必ず実際のシステムを触って操作性を確認しましょう。多くのベンダーは、オンラインでのデモンストレーションや、一定期間無料でシステムを試せるトライアル環境を提供しています。
デモンストレーションでは、自社の課題や目的を事前に伝えておき、それらを解決する機能を中心に説明してもらうと効果的です。日々の業務で発生するであろう様々なシナリオ(例:団体予約の入力、部屋割りの変更、イレギュラーな会計処理など)を想定し、実際にどのように操作するのかを見せてもらいましょう。
無料トライアルを利用できる場合は、必ず現場のスタッフにも操作してもらうことが重要です。管理者だけが良いと思っても、実際に毎日使うスタッフが「使いにくい」と感じては意味がありません。現場のリアルなフィードバックを収集し、最終決定の参考にします。
見積もりを取得して契約する
デモやトライアルを経て、導入する製品を1社に決定したら、正式な見積もりを取得します。見積書では、初期費用や月額費用の内訳、オプション料金、サポート内容などを詳細に確認し、不明な点があればすべて解消しておきましょう。特に、契約期間の縛りや解約条件なども見落とさずにチェックすることが大切です。
費用とサービス内容に納得できたら、契約手続きに進みます。契約書の内容を十分に確認し、双方合意の上で契約を締結します。
導入設定と運用開始
契約後は、いよいよ導入に向けた具体的な準備に入ります。ベンダーの担当者と打ち合わせを行い、導入スケジュールを決定します。
主な作業としては、システムの初期設定、マスタデータ(客室タイプ、料金プラン、商品情報など)の登録、既存の顧客データなどの移行があります。これらの作業は、ベンダーのサポートを受けながら進めるのが一般的です。
並行して、スタッフへのトレーニングを実施します。ベンダーによる操作説明会を開催したり、ホテル独自の運用マニュアルを作成したりして、全スタッフがスムーズにシステムを使えるように準備を進めます。
すべての設定とトレーニングが完了したら、運用開始日(カットオーバー日)を決定し、いよいよ本番運用がスタートします。導入直後は予期せぬトラブルや疑問点が出てくることも多いですが、ベンダーのサポートを活用しながら、一つひとつ解決していきます。PMSの導入はゴールではなく、これを活用して業務を改善し、経営目標を達成していくためのスタートであるという意識を持つことが重要です。
ホテル管理システム(PMS)に関するよくある質問
ここでは、ホテル管理システム(PMS)の導入を検討する際によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
ホテル管理システム(PMS)のシェア率は?
ホテル管理システム(PMS)の国内市場における正確なシェア率を網羅した、公的機関や大手調査会社による最新の公式な統計データは、一般には広く公開されていないのが現状です。市場は非常に断片的であり、特定のベンダーが圧倒的なシェアを独占しているという状況ではありません。
ただし、業界の動向として、施設の規模や業態によって、主に利用されるPMSの傾向が分かれています。
- 大規模ホテル・リゾートホテル: 株式会社タップや株式会社ダイナテックといった、長年の実績と高いカスタマイズ性を持つオンプレミス型または高機能クラウド型PMSが伝統的に強いシェアを持っています。
- 中小規模ホテル・旅館: クラウド型の普及が最も進んでいるセグメントです。サイトコントローラー一体型の「ねっぱん!++」や「TEMAIRAZU」、シンプルな操作性が特徴の「innto」など、多種多様なベンダーが競争しています。
- 小規模施設・民泊・無人ホテル: 「AirHost PMS」「Staysee」「suitebook」など、低コストで導入でき、省人化支援機能に強みを持つ新しいクラウド型PMSの利用が広がっています。
結論として、「このPMSがシェアNo.1」と一概に言うことは難しく、自社の施設の規模や目指す運営形態に合った製品カテゴリーの中から、最適なものを選ぶことが重要です。
ホテル管理システム(PMS)の法定耐用年数は?
ホテル管理システム(PMS)の税法上の資産計上と減価償却における法定耐用年数は、その提供形態(ソフトウェアの購入か、サービスの利用か)によって考え方が異なります。
オンプレミス型など、ソフトウェアを「購入」した場合
ソフトウェアは、税法上「無形固定資産」として扱われます。その法定耐用年数は、国税庁の定めにより、その用途によって異なります。ホテル管理システム(PMS)のような業務用ソフトウェアは、通常「その他のもの」に分類され、法定耐用年数は5年となります。
したがって、取得にかかった費用(購入代金や導入のための設定費用など)を、5年間にわたって減価償却していくことになります。
(参照:国税庁 No.5461 ソフトウェアの取得価額と耐用年数)
クラウド型(SaaS)など、サービスとして「利用」した場合
クラウド型のPMSは、ソフトウェアを購入するのではなく、月額料金などを支払ってサービスを利用する形態(SaaS:Software as a Service)です。この場合、システムは自社の資産とはならず、支払った利用料金は「通信費」や「支払手数料」などの経費(費用)として、支払った事業年度に全額を計上するのが一般的です。したがって、減価償却という考え方は発生しません。
ただし、導入時に支払った初期設定費用などが高額(一般的に20万円以上)で、その効果が1年以上にわたって及ぶと判断される場合は、「繰延資産」として資産計上し、数年間にわたって償却するケースもあります。このあたりの会計処理については、顧問税理士などの専門家に確認することをお勧めします。
まとめ
本記事では、ホテル管理システム(PMS)について、その基本的な概念から主要機能、導入のメリット・デメリット、選び方のポイント、そして具体的な製品に至るまで、包括的に解説してきました。
ホテル管理システム(PMS)は、もはや単なる予約管理ツールではありません。複数の販売チャネルからの予約を一元管理し、フロント業務を劇的に効率化するだけでなく、蓄積されたデータを活用して集客力を高め、パーソナライズされたサービスによる顧客満足度の向上を実現します。人手不足や顧客ニーズの多様化といった現代のホテル経営が直面する課題を解決し、持続的な成長を遂げるための不可欠な経営基盤と言えるでしょう。
PMSの導入を成功させる鍵は、自社の規模や業態、そして何よりも「どのような課題を解決し、どのようなホテルを目指したいのか」という目的を明確にすることです。その上で、操作性、連携性、サポート体制、セキュリティ、そして費用対効果といった多角的な視点から、自社にとって最適なパートナーとなるシステムを慎重に選定することが求められます。
クラウド型、オンプレミス型、それぞれにメリット・デメリットがありますが、近年の主流は低コストかつ迅速に導入できるクラウド型です。無料トライアルなどを活用し、現場のスタッフも交えて実際の操作感を確かめながら、納得のいく製品を選びましょう。
PMSの導入は、時に大きな投資と組織の変化を伴います。しかし、それは未来への戦略的な投資です。この記事が、貴ホテルにとって最適なPMS導入の一助となり、業務の革新と事業の飛躍に繋がることを心より願っています。