旅行は、私たちの日常に彩りを与え、新たな発見や感動、そしてかけがえのない思い出をもたらしてくれます。そんな魅力的な「旅」をビジネスとして支え、人々の夢を形にするのが「旅行業」です。本記事では、旅行業の基本的な定義から、その複雑な種類分け、多岐にわたる仕事内容、業界の現状と将来性に至るまで、網羅的に解説します。旅行業界で働くことに興味がある方はもちろん、旅行サービスの裏側を知りたい方にとっても、有益な情報を提供します。
目次
旅行業とは
旅行業とは、一言で表すと「報酬を得て、旅行に関するサービスを提供する事業」のことです。これは旅行業法という法律で定められており、旅行者の安全確保と取引の公正を守るために、事業を行うには国や都道府県への登録が義務付けられています。
具体的には、以下のような行為が旅行業務にあたります。
- 運送サービスの手配: 航空券、鉄道の切符、貸切バスなどの手配
- 宿泊サービスの手配: ホテル、旅館、民宿などの予約
- 運送・宿泊以外の手配: パスポート取得代行、観光施設の入場券、食事、ガイド、通訳の手配など
- 企画旅行の企画・実施: 上記のサービスを組み合わせ、旅行プラン(パッケージツアーなど)として企画し、販売・実施すること
多くの人が「旅行代理店」という言葉を思い浮かべるかもしれませんが、法律上の正式名称は「旅行業」です。旅行業は、単に航空券やホテルを予約する代行業者ではありません。お客様の漠然とした「どこかへ行きたい」という想いを汲み取り、予算や日数、興味・関心に合わせて最適なプランを提案し、複雑な手配を代行し、旅先での安全を確保する、旅のトータルプロデューサーであり、専門的なコンサルタントとしての役割を担っています。
旅行業が社会で果たす役割は非常に大きく、多岐にわたります。まず、人々の余暇を充実させ、心身のリフレッシュや自己実現の機会を提供します。家族旅行、新婚旅行、友人との卒業旅行など、人生の節目における大切な思い出作りをサポートすることは、旅行業の最も重要な使命の一つです。
経済的な側面から見ると、旅行業は地域経済の活性化に大きく貢献します。旅行者が訪れることで、交通機関、宿泊施設、飲食店、土産物店など、さまざまな関連産業にお金が流れます。特に地方においては、観光が主要な産業となっているケースも少なくありません。近年注目されるインバウンド(訪日外国人旅行)の拡大は、日本の魅力を世界に発信し、外貨を獲得する上で極めて重要な役割を果たしています。
さらに、文化交流の促進という側面もあります。人々が異なる地域や国を訪れることで、その土地の文化、歴史、価値観に触れ、相互理解が深まります。これは、国際的な友好関係の構築や、国内における地域間の交流促進にも繋がる、意義深い活動です。
ビジネスモデルとしては、主に以下の3つの収益源があります。
- 手数料(コミッション): 航空会社やホテルなどの仕入れ先から、送客の見返りとして受け取る販売手数料。
- 取扱料金: 旅行者から、手配や相談、旅行書類作成などの対価として受け取る料金。
- 企画料: パッケージツアーなど、旅行会社が独自に企画した商品において、原価(仕入れ値)に上乗せする利益。
近年、インターネットの普及により、オンライン専門の旅行会社(OTA: Online Travel Agent)が急速にシェアを拡大しました。これにより、消費者は自ら情報を比較し、簡単に予約できるようになり、従来の旅行会社の役割は大きく変化しました。しかし、情報が溢れる現代だからこそ、膨大な選択肢の中から最適なものを提案してくれる専門家の存在価値は、むしろ高まっていると言えるでしょう。特に、複雑な旅程の相談、万が一のトラブルへの対応、個人では手配が難しい特別な体験の提供など、人間にしかできない付加価値の提供が、これからの旅行業には求められています。
この記事を通して、旅行業の奥深い世界を探求し、その魅力と可能性を理解していただければ幸いです。
旅行業の4つの種類と登録制度
旅行業を営むためには、旅行業法に基づき、観光庁長官または都道府県知事への登録が必要です。これは、高額な旅行代金を預かり、旅行者の安全に責任を負うという事業の性質上、消費者を保護し、健全な旅行業界を維持するための重要な制度です。
登録には、事業者の財産的基盤や、専門知識を持つ「旅行業務取扱管理者」の選任などが要件とされており、事業の規模や取り扱う業務範囲によって、主に4つの種類に区分されています。これらの違いを理解することは、旅行会社のサービス内容や信頼性を判断する上で役立ちます。
以下に、4つの旅行業の種類と、関連する業務の概要をまとめます。
種類 | 取り扱い可能な業務範囲 | 登録行政庁 | 基準資産額 | 営業保証金(最低額) |
---|---|---|---|---|
第1種旅行業 | 海外・国内の企画旅行、手配旅行、他社募集型企画旅行の代理販売など、すべての旅行業務 | 観光庁長官 | 3,000万円 | 7,000万円 |
第2種旅行業 | 国内の企画旅行、国内外の手配旅行、他社募集型企画旅行の代理販売 | 都道府県知事 | 700万円 | 1,100万円 |
第3種旅行業 | 営業所の所在する市町村と隣接市町村等、限定された区域内での企画旅行、国内外の手配旅行、他社募集型企画旅行の代理販売 | 都道府県知事 | 300万円 | 300万円 |
地域限定旅行業 | 営業所の所在する市町村と隣接市町村等、限定された区域内でのみ完結する旅行(着地型観光) | 都道府県知事 | 100万円 | 100万円 |
※営業保証金は、旅行業協会の保証社員になることで、5分の1の額の「弁済業務保証金分担金」を納付することで代替できます。上記の表は最低額であり、前事業年度の取引額によって増減します。
参照:観光庁 旅行業法、JATA(日本旅行業協会)公式サイト
① 第1種旅行業
第1種旅行業は、取り扱いできる業務範囲に一切の制限がない、最も包括的なライセンスです。海外・国内を問わず、自社で旅行商品を企画・実施する「募集型企画旅行(パッケージツアー)」や、お客様の要望に応じて個別にプランを作成する「受注型企画旅行」、航空券やホテルのみを手配する「手配旅行」など、すべての形態の旅行業務を行えます。
【特徴】
- 業務範囲の広さ: 海外旅行のパッケージツアーを造成・販売できるのは第1種旅行業者だけです。国際的なイベントや大規模なインセンティブ旅行など、グローバルな案件に対応できます。
- 高い信頼性: 登録要件が最も厳しく、基準資産額は3,000万円、営業保証金は最低でも7,000万円と高額に設定されています。これは、万が一の倒産時などに旅行者を保護するための資金であり、高い財産的基盤があることの証明でもあります。
- 主な事業者: 全国に支店網を持つ大手旅行会社や、海外旅行を主力商品とする企業が、この第1種旅行業の登録を受けています。
【具体例】
- ヨーロッパ周遊パッケージツアーの企画・販売
- 企業の海外研修旅行や報奨旅行の一括手配
- 国際スポーツ大会の観戦ツアーの造成
第1種旅行業者は、その広範なネットワークと豊富な経験を活かし、複雑で大規模な旅行の企画・手配を得意としています。個人では手配が困難な旅や、絶対的な安心感を求める旅行において、頼りになる存在です。
② 第2種旅行業
第2種旅行業は、国内旅行の企画・実施に強みを持つライセンスです。海外旅行に関しては、自社でパッケージツアーを企画・実施することはできませんが、お客様の依頼に基づく手配旅行や、第1種旅行業者が企画した海外パッケージツアーを代理で販売することは可能です。
【特徴】
- 国内旅行のスペシャリスト: 自社で国内の募集型企画旅行(バスツアー、温泉旅行プランなど)を造成できます。地域に密着したユニークな国内ツアーを企画する会社も多く見られます。
- インバウンド業務: 訪日外国人旅行者(インバウンド)向けに、日本国内の旅行プランを企画・販売することも可能です。そのため、インバウンドを専門に扱う旅行会社の多くが第2種旅行業の登録をしています。
- バランスの取れた登録要件: 基準資産額は700万円、営業保証金は1,100万円からと、第1種に比べて要件が緩和されており、中堅の旅行会社や特定の分野に特化した事業者が参入しやすい区分です。
【具体例】
- 四季折々の魅力を楽しむ国内バスツアーの企画・実施
- 特定のテーマ(城巡り、アニメ聖地巡礼など)に特化した国内専門ツアーの造成
- 海外からの旅行者向けに、日本の文化体験を含む周遊プランの提供
第2種旅行業者は、日本の隅々まで知り尽くした知見を活かし、国内旅行の新たな魅力を発掘・提案する役割を担っています。
③ 第3種旅行業
第3種旅行業は、より地域に密着した小規模な旅行を扱うライセンスです。自社で企画・実施できる募集型企画旅行の範囲が、「営業所のある市町村および、それに隣接する市町村の範囲内」に限定されるのが最大の特徴です。ただし、手配旅行については、第2種と同様に国内外を問わず取り扱うことができます。
【特徴】
- 地域密着型: 企画旅行の範囲が限定されているため、地元の観光資源を活かした日帰り旅行や、近隣エリアへの小旅行の企画が中心となります。
- 参入のしやすさ: 基準資産額300万円、営業保証金300万円からと、登録要件が比較的緩やかで、小規模事業者や新規参入がしやすい区分です。
- 手配業務が中心: 実際には、企画旅行よりも、国内外の航空券やホテルの手配、大手旅行会社のパッケージツアーの代理販売などを主業務としている会社が多い傾向にあります。
【具体例】
- 市内の工場見学とランチを組み合わせた日帰りバスツアーの企画
- 近隣の温泉地への送迎付き宿泊プランの販売
- 地域住民向けの、海外旅行の手配相談や大手ツアーの代理販売
第3種旅行業者は、地域コミュニティの身近な相談窓口として、住民の旅行ニーズに応える重要な役割を果たしています。
④ 地域限定旅行業
地域限定旅行業は、2013年の旅行業法改正で新設された、比較的新しい区分です。「着地型観光」の促進を目的としており、旅行が出発する場所ではなく、旅行先(着地)の地域事業者が、その地域の魅力を活かした体験型ツアーなどを企画・実施することを想定しています。
【特徴】
- 着地型観光に特化: 業務範囲が「営業所のある市町村および、それに隣接する市町村の区域内」に限定されます。つまり、その地域内で旅行が始まり、完結する形態のサービスのみ提供できます。
- 地域の魅力発信: 農業体験、伝統工芸体験、自然散策ガイドツアーなど、その土地ならではのユニークな体験プログラムの提供が中心となります。
- 最も参入しやすい: 基準資産額100万円、営業保証金100万円からと、要件が最も緩やかです。これにより、NPO法人や農家、小規模な観光事業者などが旅行業に参入しやすくなりました。
【具体例】
- 農家が主催する、野菜の収穫と調理体験ツアー
- 離島のガイドが案内する、カヌー&シュノーケリング体験
- 歴史的な街並みを、地元の専門ガイドと巡るウォーキングツアー
地域限定旅行業は、旅行者のニーズが「モノ消費」から「コト消費」へと移行する中で、画一的ではない、本物の体験価値を提供する上で非常に重要な役割を担っています。
その他の関連業務
上記の4つの旅行業者のほかに、旅行業界を支える重要なプレーヤーがいます。
旅行業者代理業
旅行業者代理業者は、特定の旅行業者(所属旅行業者)の代理として旅行業務を行う事業者です。自社で旅行商品を企画することはできず、あくまで所属旅行業者が企画・実施する旅行の販売や、その会社の代理として契約を結ぶ業務のみを行います。ショッピングモール内にある旅行カウンターなどがこれにあたる場合が多く、1社の専属代理店として機能します。
旅行サービス手配業
旅行サービス手配業は、2018年の法改正で新設された登録制度で、「ランドオペレーター」とも呼ばれます。彼らは旅行者と直接契約するのではなく、第1種~第3種の旅行業者からの依頼を受けて、現地の宿泊、運送、ガイド、レストランなどの地上手配(Land Arrangement)を専門に行う事業者です。特にインバウンド旅行においては、日本の地理や文化に不慣れな海外の旅行会社に代わって、国内の複雑な手配を一括して引き受ける、不可欠な存在となっています。
旅行業の主な仕事内容5選
旅行会社と一言で言っても、その内部にはさまざまな役割を担う専門職が存在します。お客様と直接対話する仕事から、裏方で旅行商品を創り上げる仕事、企業を相手にする仕事まで、多岐にわたります。ここでは、旅行業を代表する5つの仕事内容について、その魅力や求められるスキルを詳しく見ていきましょう。
① カウンターセールス
カウンターセールスは、店舗の窓口でお客様と直接向き合い、旅行の相談に応じる、「会社の顔」とも言える仕事です。一般的に「旅行代理店の店員さん」としてイメージされるのがこの職種です。
【主な業務内容】
- 旅行相談・ヒアリング: お客様の予算、日数、希望、旅行の目的(新婚旅行、家族旅行など)を丁寧にヒアリングします。
- プラン提案: ヒアリング内容に基づき、パンフレットに掲載されているパッケージツアーや、航空券とホテルを組み合わせた個人旅行プランなどを提案します。
- 予約・手配: お客様の希望が決まれば、専用の端末システムを操作して、航空機、ホテル、鉄道、オプショナルツアーなどを予約・手配します。
- 契約・精算: 旅行の契約手続き、代金の受領、旅行日程表やチケット類のお渡しなどを行います。
- 出発前のサポート: パスポートやビザの確認、海外旅行保険の案内など、お客様が安心して出発できるようサポートします。
【やりがいと大変な点】
やりがいは、何と言ってもお客様の夢や期待に満ちた表情を間近で見られることです。「おかげで最高のハネムーンになりました」といった感謝の言葉を直接もらえる機会も多く、人の役に立っている実感を得やすい仕事です。
一方、大変な点としては、国内外の膨大な観光地、交通、宿泊施設に関する知識を常にアップデートし続ける必要があります。また、時にはフライトの欠航や現地の情勢不安といったトラブルに関する対応や、お客様からのクレーム対応も求められます。
【求められるスキル】
お客様の漠然とした要望を的確に汲み取る傾聴力、旅の魅力を分かりやすく伝える提案力はもちろんのこと、複雑な予約をミスなくこなす正確な事務処理能力も不可欠です。
② ツアープランナー(旅行企画)
ツアープランナーは、旅行という商品をゼロから創り出す、クリエイティブな仕事です。市場のトレンドを読み解き、魅力的なコンセプトを立て、人々を惹きつける旅行商品を企画・造成します。
【主な業務内容】
- 市場調査・分析: 顧客のニーズ、競合他社の動向、新しい観光地やトレンドなどを調査・分析します。
- コンセプト企画: 「誰に(ターゲット)」「どんな体験を(コンセプト)」提供するのかを明確にし、旅行の骨子を固めます。
- コース造成: 航空会社、ホテル、レストラン、観光施設などを選定し、具体的な日程(旅程)を作成します。
- 仕入れ・交渉: 各仕入れ先と価格や提供条件について交渉し、コストを管理します。
- 価格設定・販売戦略: 原価計算を行い、利益を確保できる販売価格を設定。パンフレットやウェブサイトの制作ディレクション、販売促進の計画も担当します。
【やりがいと大変な点】
自分のアイデアが商品となり、それがヒットして多くの人を喜ばせることができるのが最大のやりがいです。まだ知られていないデスティネーションに光を当て、新たな旅行のスタイルを創造する面白さもあります。
その反面、常にヒット商品を生み出さなければならないプレッシャーは大きく、緻密な原価計算と採算管理が求められます。天候や国際情勢など、コントロールできない要因に企画が左右されることも少なくありません。
【求められるスキル】
時代の空気を読むマーケティング視点、斬新なアイデアを生み出す企画力、関係各所と粘り強く交渉する交渉力、そしてプロジェクト全体を管理するマネジメント能力が必要です。
③ ツアーコンダクター(添乗員)
ツアーコンダクターは、パッケージツアーなど団体旅行に同行し、お客様が安全で快適に旅を楽しめるようサポートする、旅の演出家であり責任者です。一般的に「添乗員」と呼ばれます。
【主な業務内容】
- 旅程管理: スケジュール通りに旅行が進行するよう、時間や移動を管理します。
- 案内・誘導: 空港でのチェックイン手続きの補助、観光地での案内、集合時間の伝達などを行います。
- 安全確保: お客様の健康状態や安全に常に気を配り、緊急時には適切な対応を取ります。
- トラブル対応: 荷物の紛失、交通機関の遅延、急病人の発生といった予期せぬトラブルに迅速かつ冷静に対応します。
- 雰囲気作り: お客様が旅を楽しめるよう、コミュニケーションを取り、グループ全体の雰囲気作りにも配慮します。
【やりがいと大変な点】
お客様と旅の感動を共有し、旅の終わりには「あなたで良かった」と感謝されるなど、深い人間関係を築ける点が大きなやりがいです。世界中のさまざまな場所を訪れることができるのも魅力の一つです。
しかし、勤務時間は不規則で、長時間の移動や立ち仕事も多く、体力と精神力が不可欠です。ツアー中は24時間体制で責任を負うため、プレッシャーも大きい仕事です。
【求められるスキル】
集団をまとめるリーダーシップ、予期せぬ事態に動じない問題解決能力、そしてお客様に寄り添う高いホスピタリティ精神が求められます。海外ツアーを担当する場合は語学力も必須です。この業務を行うには後述する「旅程管理主任者」の資格が必要です。
④ 法人営業(アウトセールス)
法人営業は、カウンターセールスがお客様を「待つ」営業であるのに対し、企業や学校、官公庁、各種団体などにこちらからアプローチする「攻め」の営業です。アウトセールスとも呼ばれます。
【主な業務内容】
- 新規顧客開拓: 企業リストなどをもとにアポイントを取り、訪問します。
- ヒアリング・提案: 顧客の課題や目的(社員のモチベーション向上、チームビルディングなど)をヒアリングし、社員旅行、研修旅行、報奨旅行(インセンティブツアー)、国際会議、視察旅行などを企画・提案します。
- コンペ参加・プレゼンテーション: 複数の旅行会社が競合するコンペティションに参加し、顧客に対してプレゼンテーションを行います。
- 契約・実施サポート: 受注後は、手配部門や添乗員と連携し、旅行が成功裏に終わるまで全体を管理します。
- 既存顧客との関係維持: 定期的に顧客と連絡を取り、長期的な関係を構築します。
【やりがいと大変な点】
一度に数百人規模、数千万円といった大規模な案件を動かすダイナミズムと、成功させた時の大きな達成感がやりがいです。旅行を通じて顧客企業の課題解決に貢献できる点も魅力です。
一方で、営業目標(ノルマ)が課されることが多く、厳しい競争に常に晒されます。顧客の要望も専門的で高度なものが多く、高い提案力が求められます。
【求められるスキル】
顧客の懐に入り込むコミュニケーション能力、課題を的確に捉え解決策を提示する提案力・コンサルティング能力、そして説得力のあるプレゼンテーション能力が重要になります。
⑤ 手配・仕入れ
手配・仕入れは、企画部門や営業部門からの依頼に基づき、旅行を構成する個々のパーツ(航空券、ホテル、バス、レストランなど)を実際に予約・確保する、旅行会社の心臓部とも言える仕事です。オペレーターやリザベーション(予約)担当とも呼ばれます。
【主な業務内容】
- 予約・発券: 航空会社の予約システム(GDS)などを操作し、航空券の予約や発券を行います。
- 仕入れ・交渉: 繁忙期に向けて、航空会社から座席をブロック(まとまった数を事前に確保)したり、ホテルと団体料金の交渉を行ったりします。
- 在庫管理: 確保した座席や客室の在庫を管理し、販売部門に情報を提供します。
- 関係各所との調整: 現地のランドオペレーター(旅行サービス手配業者)や交通機関などと、詳細なスケジュールや内容について調整します。
【やりがいと大変な点】
有利な条件で質の高い素材を仕入れることで、商品の価格競争力や魅力を直接的に高めることができるのが、この仕事の醍醐味です。航空会社やホテルなど、業界内のプロフェッショナルとのネットワークが広がることも魅力です。
需要期には希望通りの予約を取ることが困難であったり、為替レートの変動によって仕入れコストが大きく変わったりと、常にプレッシャーのかかる仕事です。小さなミスが大きなトラブルに繋がるため、極めて高い正確性が求められます。
【求められるスキル】
有利な条件を引き出すための交渉力、多くの関係者と円滑に業務を進める調整能力、そして複雑な予約ルールや運賃計算を正確に処理する事務処理能力と専門知識が不可欠です。海外とのやり取りも多いため、語学力も大いに役立ちます。
旅行業で働く3つのやりがい
旅行業は、華やかなイメージがある一方で、地道な努力や臨機応変な対応が求められる厳しい側面も持ち合わせています。それでも多くの人がこの業界に魅了されるのは、他では得られない特別なやりがいがあるからです。ここでは、旅行業で働くことの代表的な3つのやりがいについて掘り下げていきます。
① お客様の思い出作りをサポートできる
旅行は、多くの人にとって非日常的な「ハレ」のイベントです。新婚旅行、一生に一度の家族旅行、学生時代の仲間との卒業旅行など、人々の人生における大切な節目や、かけがえのない時間に深く関われること、それが旅行業で働く最大のやりがいと言えるでしょう。
お客様は、単に飛行機やホテルといった「モノ」を求めているわけではありません。その先にある「体験」や「感動」、そして「思い出」という、形のない価値を求めて旅行会社を訪れます。カウンターセールス担当者は、お客様の漠然とした夢を具体的な形にするお手伝いをし、ツアープランナーは、まだ見ぬ感動体験を企画します。そしてツアーコンダクターは、旅先でお客様の笑顔に直接触れ、感動の瞬間を共に分かち合います。
例えば、結婚30周年を迎えるご夫婦から「若い頃に行けなかったヨーロッパへ行きたい」という相談を受けたとします。ただ有名な観光地を巡るだけでなく、お二人の馴れ初めや共通の趣味をヒアリングし、「ご主人が好きなワインの産地を訪ね、奥様が好きな絵画のある美術館を巡る」といった、そのお客様だけの特別なストーリーを盛り込んだ旅を提案できた時の喜びは計り知れません。
そして旅行から帰ってきたお客様から、「おかげで一生の思い出ができました」「提案してくれたレストラン、最高でした!」といった感謝の言葉をいただいた時、この仕事をしていて本当に良かったと心から感じることができます。このように、人の幸福に直接的に貢献し、その喜びを分かち合えることは、他の仕事ではなかなか味わえない、旅行業ならではの深い満足感に繋がります。
② 旅行に関する専門知識が深まる
旅行業は、知的好奇心が旺盛な人にとって、非常に刺激的な環境です。仕事を通じて、世界中の地理、歴史、文化、言語、そして交通機関や宿泊施設に関する専門的で実践的な知識が自然と身についていきます。
例えば、カウンターセールスであれば、お客様の多様な要望に応えるために、ヨーロッパの鉄道網から東南アジアのビーチリゾートの選び方、各国のビザ要件まで、幅広い知識が求められます。ツアープランナーであれば、新しいデスティネーションを発掘するために、現地の政治情勢や文化的なタブー、新しいホテルのオープン情報などを常にキャッチアップしなくてはなりません。
最初は覚えることの多さに圧倒されるかもしれませんが、日々の業務をこなすうちに、点と点だった知識が線となり、やがて面となって、世界全体を立体的に捉えられるようになります。
- 「この時期のこの国は雨季だから、別の国をおすすめしよう」
- 「この航空会社の乗り継ぎはスムーズだから、年配のお客様にも安心だ」
- 「このホテルは、実は隠れた絶景スポットが近くにある」
このように、インターネットで検索するだけでは得られない、プロならではの知見やノウハウが蓄積されていくのです。こうした専門知識は、お客様への提案力を高めるだけでなく、自分自身のプライベートな旅行を計画する際にも大いに役立ちます。まさに、「好き」を仕事にしながら、その「好き」をさらに深めていける、理想的な環境と言えるでしょう。また、会社によっては研修や視察旅行(ファムトリップ)で実際に現地を訪れる機会もあり、知識を生きた体験として吸収できるチャンスも豊富です。
③ 自分の企画で人を喜ばせられる
旅行業、特にツアープランナーや法人営業といった職種には、自らのアイデアや創造性を発揮し、それを形にして多くの人を動かすという大きな醍醐味があります。
自分が「これは面白い!」「きっとお客様に喜んでもらえるはずだ」と信じて練り上げた企画が、会議を通り、パンフレットやウェブサイトに掲載され、一つの「商品」として世に出ていく過程は、まるで我が子を育てるかのような感覚です。そして、そのツアーに予約が入り始め、催行が決定し、参加したお客様から「今までで一番楽しい旅行だった」「こんな旅がしたかった」という声が届いた時の達成感は、何物にも代えがたいものがあります。
例えば、社会のトレンドを捉え、「デジタルデトックスをテーマにした、電波の届かない山奥のロッジに泊まるツアー」や、「地元の漁師と一緒に行く漁業体験と、獲れたての魚を味わう美食ツアー」など、大手にはないユニークな切り口の企画がヒットした時の喜びは格別です。それは、単に旅行を売ったのではなく、新しい価値観やライフスタイルを提案し、社会に影響を与えることができたという実感にも繋がります。
また、法人営業であれば、企業の課題解決というミッションがあります。「社員の結束力を高めたい」というクライアントに対し、チームビルディングを目的とした無人島サバイバル研修旅行を提案し、見事に成功させたとします。旅行後、クライアントから「おかげで社内のコミュニケーションが活性化した」と感謝された時、自分たちの仕事が単なるレジャーの提供に留まらず、企業の成長に貢献できたというプロフェッショナルとしての誇りを感じることができるでしょう。このように、自分の企画力や提案力で、個人や組織にポジティブな変化をもたらし、喜ばせることができるのは、この仕事の大きな魅力です。
旅行業に向いている人の特徴
旅行業は、多くの人にとって憧れの業界ですが、誰もが活躍できるわけではありません。お客様の大切な時間とお金を預かり、夢と安全に責任を持つ仕事だからこそ、求められる資質があります。ここでは、どのような人が旅行業に向いているのか、その特徴を3つのポイントから解説します。
旅行が好きな人
これは当然のことのように思えるかもしれませんが、旅行業で働く上での大前提であり、最も重要な原動力です。しかし、ここで言う「旅行が好き」とは、単に自分が旅行をすることを楽しむ、というレベルに留まりません。その「好き」という情熱を、他者を喜ばせるためのエネルギーに転換できる人が、旅行業に向いています。
具体的には、以下のような特性を持つ人です。
- 探究心が旺盛: 特定の国や地域について、歴史や文化、グルメ、地理などを深く掘り下げて調べることが苦にならない人。常に新しい観光情報やトレンドにアンテナを張っており、人に語れるほどの知識を持っている人。
- 共感力が高い: 自分が旅先で感じた感動や興奮を、自分の言葉で生き生きと他者に伝えることができる人。お客様が旅行に何を求めているのかを、自分の体験と重ね合わせながら想像し、共感できる人。
- プランニングが好き: 友人との旅行の幹事を率先して引き受けたり、自分の旅行の計画を分刻みで立てるのが好きだったりする人。限られた予算と時間の中で、最高の体験ができるようにルートやアクティビティを組み立てるプロセスそのものを楽しめる人。
お客様は、旅行のプロに対して、ガイドブックには載っていないような、血の通った情報を期待しています。「この時期のパリは日差しが強いのでサングラスが必須ですよ」「このホテルの朝食のクロワッサンは絶品です」といった、実体験に基づいた一言が、お客様の心を掴み、信頼に繋がります。 旅行への尽きない情熱こそが、質の高いサービスを生み出すための源泉となるのです。
コミュニケーション能力が高い人
旅行業は、究極のサービス業であり、対人折衝の連続です。お客様、航空会社、ホテル、現地の協力会社など、国内外のさまざまな人と関わりながら仕事を進めていくため、高度で多角的なコミュニケーション能力が不可欠です。
これは、単に「話すのが上手い」ということではありません。以下のような、さまざまな側面を含んだ能力が求められます。
- 傾聴力: お客様が言葉にする要望だけでなく、その裏にある本当に満たしたいニーズや、言葉にできない不安を丁寧に聞き出す力。特にカウンターセールスでは、この能力が提案の質を大きく左右します。
- 提案力・説明力: 相手の理解度や興味に合わせて、専門的な内容を分かりやすく、かつ魅力的に伝える力。なぜこのプランがお客様にとって最適なのかを、論理的に、そして情熱的に説明する能力が求められます。
- 調整力・交渉力: 立場や利害が異なる複数の関係者(例:お客様、航空会社、ホテル)の間に立ち、それぞれの要望を調整し、全員が納得できる着地点を見つけ出す力。手配・仕入れ部門や法人営業では特に重要です。
- ストレス耐性: 旅行にはトラブルがつきものです。フライトの遅延、お客様の急病、現地のストライキなど、予期せぬ事態が発生した際に、パニックにならず冷静に状況を判断し、お客様を安心させながら的確に対応する力も、重要なコミュニケーション能力の一部です。
旅行業におけるコミュニケーションとは、信頼関係を築くための全ての行為と言えます。相手の立場を尊重し、誠実に対応できる人が、プロフェッショナルとして長く活躍できます。
企画や情報収集が得意な人
旅行商品は、目に見えない「体験」を売るものです。そのため、お客様に「この旅行に行きたい!」と思わせるような、魅力的なプランを組み立てる企画力が非常に重要になります。
この企画力は、ツアープランナーのような専門職だけのスキルではありません。
- カウンターセールス: お客様一人ひとりの要望に合わせて、航空券、ホテル、オプショナルツアーを組み合わせてオーダーメイドの旅程を作ることは、まさにミクロな企画業務です。
- 法人営業: クライアント企業の課題に対し、旅行というソリューションを提案することも、高度な企画力が求められます。
- ツアーコンダクター: 天候や交通状況の変化に応じて、その場で旅程を柔軟に変更し、代替案を提示するのも、一種の即興的な企画力と言えます。
そして、優れた企画を支えるのが、正確かつ最新の情報を効率的に収集・整理する能力です。旅行業界の情報は、日々刻々と変化します。航空会社の運航スケジュール、各国の入国条件、新しい観光施設のオープン、ホテルの改装情報、現地の治安状況など、把握すべき情報は膨大です。
インターネット、業界専門誌、SNS、現地からのレポートなど、さまざまな情報源から必要な情報を素早くキャッチし、その信憑性を確かめ、業務に活かす能力が求められます。溢れる情報の中から玉石を見極め、それを論理的に組み立てて価値ある提案に変えることができる人は、どの職種においても重宝される存在となるでしょう。
旅行業の現状と将来性
旅行業界は、社会情勢やテクノロジーの進化に大きく影響される、ダイナミックな変化の只中にあります。特に、新型コロナウイルスのパンデミックは業界に未曾有の打撃を与えましたが、その後の回復過程で新たな課題とチャンスが浮き彫りになりました。ここでは、旅行業が直面する現状を多角的に分析し、その将来性について展望します。
旅行需要の回復とインバウンド市場の拡大
世界的なパンデミックにより一時は完全に停滞した旅行需要ですが、行動制限の緩和以降、力強い回復を見せています。特に、これまで抑えられていた旅行への欲求が「リベンジ消費」として顕在化し、国内旅行を中心に活気を取り戻しています。
さらに、日本経済にとって極めて大きな追い風となっているのが、インバウンド(訪日外国人旅行)市場の急拡大です。水際対策の大幅な緩和に加え、歴史的な円安が追い風となり、多くの外国人旅行者が日本を訪れています。観光庁の発表によると、2024年3月には訪日外客数が単月で初めて300万人を突破するなど、その勢いはパンデミック前を上回る水準に達しています。(参照:日本政府観光局(JNTO) 訪日外客数・出国日本人数)
このインバウンド需要の爆発的な増加は、旅行業界にとって絶好のビジネスチャンスです。単に観光地を巡るだけでなく、日本ならではの文化体験(茶道、書道など)や食、アニメ、自然といった、より深い魅力を求める旅行者が増えており、彼らの多様なニーズに応える専門的なサービスの提供が急務となっています。多言語対応はもちろんのこと、各国の文化や習慣を理解した上でのきめ細やかな対応ができる人材や、ユニークな体験型コンテンツを企画できる旅行会社が、今後大きく成長する可能性があります。
オンライン旅行会社(OTA)の普及と影響
一方で、旅行業界の構造を大きく変えたのが、OTA(Online Travel Agent)の存在です。インターネット上で航空券や宿泊施設などを検索・予約できるOTAは、その利便性と価格競争力を武器に、急速に市場シェアを拡大しました。
消費者は、店舗に足を運ばなくても、スマートフォン一つで世界中の旅行商品を比較検討し、最安値で予約できるようになりました。この変化は、従来の店舗型旅行会社(リアルエージェント)に大きな影響を与えました。単に航空券やホテルを予約するだけの「手配代行」業務はOTAに代替されやすく、価格競争に巻き込まれて収益を圧迫されるケースも少なくありません。
このOTAの台頭により、「旅行会社は不要になるのではないか」という議論(中抜き論)も活発になりました。しかし、現状は単純な二項対立ではありません。OTAが手軽さや価格面で強みを発揮する一方で、リアルエージェントならではの価値も見直されています。
個人旅行の増加とニーズの多様化
OTAの普及と並行して進んでいるのが、団体旅行から個人旅行(FIT: Foreign Independent Tour / Free Independent Traveler)へのシフトです。かつて主流だった、決まった旅程を大勢で巡る画一的なパッケージツアーの人気は相対的に低下し、個人の興味・関心に基づいて自由に旅を組み立てたいというニーズが高まっています。
この傾向は、旅行者の価値観の多様化を反映しています。
- テーマ性の高い旅: 「美食」「アート」「世界遺産巡り」「アニメ聖地巡礼」「鉄道」など、特定のテーマを深く掘り下げる旅。
- 体験・交流型の旅: その土地ならではの文化体験や、現地の人々との交流を重視する旅。
- アドベンチャートラベル: 登山、ダイビング、カヌーなど、自然の中でアクティブに活動する旅。
- サステナブルツーリズム: 環境保護や地域文化の尊重、地域経済への貢献を意識した、持続可能な観光。
- ウェルネスツーリズム: 心身の健康増進を目的とした、スパやヨガ、メディテーションなどを取り入れた旅。
このように、旅行ニーズはどんどん細分化・専門化しています。膨大な情報の中から、自分のニッチな好みに完全に合致するプランを自力で見つけ出すのは、かえって時間と手間がかかる場合もあります。ここに、新しい時代の旅行会社のビジネスチャンスが生まれています。
今後の旅行会社に求められる付加価値
以上の現状を踏まえると、これからの旅行会社が生き残り、成長していくためには、OTAにはない独自の付加価値を提供することが不可欠です。そのキーワードは、「単なる手配代行業者」から「旅の専門コンサルタント」への変革です。
具体的には、以下のような価値の提供が求められます。
- 高度な専門性: 特定の地域(例:南米専門、アフリカ専門)や特定のテーマ(例:クルーズ専門、登山専門、芸術鑑賞専門)に特化し、他社には真似のできない深い知識とネットワークを構築する。ニッチな分野の第一人者となることで、価格競争から脱却し、高い収益性を確保できます。
- 人間ならではの提案力: AIやアルゴリズムでは汲み取れない、お客様の言葉の裏にあるニュアンスや潜在的な願望を理解し、対話を通じて最適なプランを共創していくコンサルティング能力。お客様の人生観や価値観にまで寄り添った、パーソナライズされた提案が感動を生みます。
- 絶対的な安心・安全の提供: 旅行には予期せぬトラブルがつきものです。フライトの欠航、ロストバゲージ、病気やケガ、盗難など、いざという時に迅速かつ的確に対応してくれるプロの存在は、何物にも代えがたい安心感に繋がります。特に、複雑な旅程や治安に不安のある地域への旅行では、この価値が際立ちます。
- 特別な体験価値の創造: 個人では予約が取れない人気のレストランや、通常は非公開の場所への特別入場、著名な専門家によるプライベートガイドなど、旅行会社ならではのネットワークを活かして「そこでしかできない」「あなただけの」特別な体験を企画・提供する。これが「コト消費」時代の顧客満足度を決定づけます。
結論として、旅行業の将来は決して暗いものではありません。変化の波を捉え、テクノロジーを賢く活用しながらも、人間にしかできない専門性、提案力、安心感、そして創造性を追求することで、旅行会社は今後も社会に不可欠な存在として輝き続けることができるでしょう。
旅行業で働くために必要なスキルと資格
旅行業界でプロフェッショナルとして活躍するためには、情熱だけでなく、具体的なスキルと、それを証明する資格が大きな力となります。ここでは、旅行業でキャリアを築く上で求められる主要なスキルと、取得が推奨される代表的な資格について解説します。
求められるスキル
旅行業のどの職種においても共通して求められる、基本的ながらも非常に重要なスキルセットです。
コミュニケーション能力
これは、単に社交的であること以上の意味を持ちます。お客様の隠れたニーズを引き出す「傾聴力」、旅の魅力を具体的に伝える「説明力」、クライアントの課題を解決するプランを提示する「提案力」、そして航空会社やホテルなど多くの関係者と円滑に業務を進める「調整・交渉力」まで、非常に多岐にわたります。信頼関係の構築が全ての基本となるため、最も重要なスキルと言えます。
企画力・提案力
お客様の漠然とした「どこかへ行きたい」という願望を、具体的な旅行プランという形に落とし込む能力です。これは、市場のトレンドを読んで新しいツアーを開発するツアープランナーだけのスキルではありません。カウンターでお客様一人ひとりに合った旅程を組み立てたり、法人顧客の課題解決に繋がる旅行を提案したりと、あらゆる場面で論理的思考と創造性を組み合わせる力が求められます。
語学力
グローバル化が進む現代の旅行業界において、語学力は極めて価値の高いスキルです。特に、拡大を続けるインバウンド(訪日外国人旅行)市場に対応するためには、英語はもちろんのこと、中国語、韓国語、その他アジア言語の能力が大きな強みとなります。また、海外旅行の手配や仕入れ、海外添乗業務においても、現地のパートナーと円滑にコミュニケーションを取るために語学力は不可欠です。TOEIC(R)などのスコアはもちろん、実務で使える会話力が重視されます。
取得が推奨される資格
旅行業界での就職・転職、キャリアアップを目指す上で、知識と能力を客観的に証明してくれる資格は非常に有効です。
旅行業務取扱管理者
旅行業務取扱管理者は、旅行業法で定められた国家資格であり、旅行業界で働く上で最も重要かつ信頼性の高い資格の一つです。各営業所には必ず1名以上の有資格者を「管理者」として選任することが義務付けられているため、この資格を持っていると就職や転職で圧倒的に有利になります。
資格は、取り扱える業務範囲によって3種類に分かれています。
資格の種類 | 取り扱える業務範囲 |
---|---|
総合旅行業務取扱管理者 | 海外・国内すべての旅行業務 |
国内旅行業務取扱管理者 | 国内旅行業務のみ |
地域限定旅行業務取扱管理者 | 営業所のある市町村及び隣接市町村内に限定された旅行業務のみ |
【取得のメリット】
- 就職・転職に有利: 法律で設置が義務付けられているため、企業からのニーズが非常に高い。
- キャリアアップ: 資格手当が支給されたり、管理職への昇進の要件になったりすることが多い。
- 信頼性の証明: 旅行業に関する法令や約款、実務知識を持つプロフェッショナルであることの客観的な証明になる。
- 独立開業: 将来的に旅行会社を設立する場合、この資格が必要になります。
試験は年に1回実施され、旅行業法、約款、国内・海外旅行実務(地理、歴史、観光資源、交通、宿泊、語学など)といった幅広い知識が問われます。難易度は決して低くありませんが、取得する価値は非常に高い資格です。
旅程管理主任者
旅程管理主任者は、ツアーコンダクター(添乗員)として募集型企画旅行や受注型企画旅行に同行するために必須となる資格です。この資格がなければ、添乗業務を行うことは法律で禁じられています。
資格には、海外・国内の両方に添乗できる「総合旅程管理主任者」と、国内のみに添乗できる「国内旅程管理主任者」の2種類があります。
【資格取得のプロセス】
この資格は、国家試験のような一発試験ではなく、以下の要件を満たすことで取得できます。
- 観光庁長官の登録を受けた研修機関が実施する「旅程管理研修」を修了する。
- 研修修了後、一定期間内に実務経験を積む(実際に添乗業務を補助するなど)。
【取得のメリット】
- 添乗業務の必須要件: ツアーコンダクターを目指すなら、避けては通れない資格です。
- 実践的な知識の習得: 研修では、添乗業務に必要な法令知識、安全管理、トラブル対応など、非常に実践的な内容を学びます。
旅行会社に就職してから会社の費用で取得するケースも多いですが、派遣会社などに登録して先に資格を取得し、添乗員としてのキャリアをスタートさせる道もあります。
旅行業の年収の目安
旅行業でのキャリアを考える上で、年収は重要な要素の一つです。ただし、旅行業の年収は、企業の規模、職種、個人の経験やスキル、保有資格、そして営業成績など、さまざまな要因によって大きく変動することをまず理解しておく必要があります。
一般的に、旅行業を含む「宿泊業、飲食サービス業」の平均給与は、国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると約268万円とされており、全産業の平均(約458万円)と比較すると低い水準にあります。しかし、これはパート・アルバイトなども含んだ数値であり、大手旅行会社の正社員や、高い専門性を持つ人材はこの限りではありません。
参照:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」
転職サイトなどの情報を見ると、未経験者の場合は年収300万円台からスタートすることが多く、経験を積んだ30代~40代では400万円~600万円程度が一つの目安となるでしょう。大手企業の管理職や、高い実績を上げる法人営業担当者などになれば、それ以上の年収を目指すことも可能です。
職種による年収の傾向もあります。
- カウンターセールス: 個人のお客様を対象とし、基本給+店舗の業績に応じたインセンティブという形が多く、比較的安定しています。
- 法人営業: 個人の営業成績がインセンティブ(報奨金)として給与に大きく反映されることが多く、高い実績を上げれば高収入を狙える可能性がある職種です。
- ツアーコンダクター: 派遣社員や契約社員として働くケースも多く、その場合は「日当×添乗日数」で給与が計算されます。シーズンによって収入が変動しやすい特徴があります。
- 企画・手配: 専門職であり、経験やスキルが年収に反映されやすい傾向にあります。
年収をアップさせていくためのポイントは、以下の通りです。
- 国家資格の取得: 「総合旅行業務取扱管理者」などの難関資格を取得すると、資格手当が支給されたり、昇進・昇給の評価に繋がったりします。
- 営業成績を上げる: 特に法人営業において、大型案件を受注するなど高い実績を出すことが、インセンティブを通じた直接的な年収アップに繋がります。
- 専門性を高める: 特定の地域やテーマ(クルーズ、MICEなど)に特化した知識とスキルを身につけ、「この分野ならあの人」と言われるような唯一無二の存在になること。専門性が高い人材は、より良い条件で転職するチャンスも広がります。
- 語学力を磨く: 英語や中国語などの語学力を活かし、インバウンド部門や海外関連部署で活躍することで、社内での評価や市場価値を高めることができます。
- マネジメント職を目指す: 経験を積み、チームや部署をまとめる管理職へとキャリアアップしていくことが、着実な年収アップの王道と言えます。
旅行業は、必ずしも高収入を得やすい業界とは言えないかもしれません。しかし、本人の努力と戦略次第で収入を伸ばしていくことは十分に可能です。何よりも、「好き」を仕事にできるやりがいや、お客様の喜びを直接感じられる満足感といった、金銭以外の報酬も大きいのがこの仕事の魅力です。
未経験から旅行業を目指すには
「旅行が好き」という気持ちを仕事にしたいけれど、全くの未経験からでも挑戦できるのだろうか、と不安に思う方も多いでしょう。ここでは、未経験者が旅行業への就職・転職を成功させるための道筋と、採用で評価されるポイントを解説します。
未経験でも就職・転職は可能か
結論から言うと、未経験から旅行業に就職・転職することは十分に可能です。特に、第二新卒や20代の若手層に対しては、これまでの経験よりもポテンシャルや人柄、そして仕事への熱意を重視する「ポテンシャル採用」を行う企業が多くあります。
旅行業界は人の入れ替わりも比較的あるため、年間を通して未経験者歓迎の求人が見られます。特に、以下のような職種は未経験者にとって門戸が広い傾向にあります。
- カウンターセールス: お客様とのコミュニケーション能力やホスピタリティが重視されるため、接客・販売業など異業種での経験を活かしやすい職種です。入社後の研修制度が充実している企業も多く、必要な知識や端末操作は入社後に学ぶことができます。
- ツアーコンダクター(添乗員): 派遣会社に登録し、旅程管理主任者の資格取得からサポートしてもらう形でキャリアをスタートする人が多くいます。学歴や職歴よりも、体力、責任感、コミュニケーション能力が問われます。
- 法人営業のアシスタント: まずはアシスタントとして業界の知識や営業の流れを学び、将来的に営業担当を目指すというキャリアパスもあります。
もちろん、ツアープランナー(旅行企画)のような専門職や、即戦力が求められるポジションでは経験者が優遇されるのが一般的です。しかし、まずは未経験からでも挑戦しやすい職種で業界に入り、実務経験を積みながら社内でのキャリアチェンジを目指したり、専門性を高めてから転職したりといった道も考えられます。
重要なのは、諦めずに情報を収集し、自分に合った入口を見つけることです。
採用で評価されやすいポイント
未経験者が採用選考を突破するためには、経験不足を補って余りある「強み」をアピールする必要があります。以下のポイントを意識して、準備を進めましょう。
- 明確で熱意のある志望動機:
これは最も重要なポイントです。「なぜ数ある業界の中から旅行業を選んだのか」「なぜ同業他社ではなく、その会社で働きたいのか」を、自身の具体的なエピソードを交えて語れるように準備しましょう。「旅行が好きだから」というだけでは不十分です。「自分で計画した〇〇への旅行で、現地の文化に触れて深い感銘を受けた。この感動をもっと多くの人に伝えたいと思った」というように、「好き」から一歩踏み込んで、仕事としてどう貢献したいのかまでを明確にすることが大切です。 - ポータブルスキルのアピール:
未経験であっても、前職やこれまでの人生経験で培ったスキルは必ずあります。それを旅行業の仕事にどう活かせるかを具体的に結びつけてアピールしましょう。- 接客・販売経験 → カウンターセールスでの傾聴力、提案力
- 営業経験 → 法人営業での目標達成意欲、交渉力
- 事務職経験 → 手配業務での正確性、PCスキル
- リーダー経験(部活、サークルなど)→ 添乗業務でのリーダーシップ、調整力
自分の経験を棚卸しし、旅行業のどの仕事に繋がるかを分析しておくことが重要です。
- 資格の取得:
実務経験がない分、知識と熱意を客観的に証明できる資格は非常に強力な武器になります。特に国家資格である「旅行業務取扱管理者(国内または総合)」を事前に取得しておけば、「本気でこの業界で働く意思がある」という強いメッセージとなり、他の未経験者と大きな差をつけることができます。学習を通じて業界の基礎知識も身につくため、面接での受け答えにも深みが増します。 - 旅行経験と情報収集力:
豊富な旅行経験は、それ自体がアピールポイントになります。特に、他の人があまり行かないような地域への渡航経験や、特定のテーマに沿った深い旅行経験は、あなたの個性と探究心を示す良い材料です。面接では、その旅行で何を感じ、何を学んだのかを具体的に語れるようにしておきましょう。また、日頃から旅行関連のニュースやブログ、SNSをチェックし、業界の最新動向について自分なりの考えを持っていることを示すのも有効です。
未経験からの挑戦は、不安も大きいかもしれません。しかし、旅行業は「人」が資本の業界です。あなたの持つホスピタリティやコミュニケーション能力、そして何よりも「旅が好き」という純粋な情熱が、採用担当者の心を動かす最大の鍵となるでしょう。