現代のホテル・観光業において、インバウンド需要の取り込みは事業成長の生命線ともいえます。その中で、海外からの旅行者を迎えるための「多言語対応」は、もはや特別な施策ではなく、ビジネスの基盤となる必須の要素となりつつあります。しかし、一言で多言語対応といっても、「何から手をつければ良いのか分からない」「コストが心配」「運用の手間が大変そう」といった悩みを抱える事業者様は少なくありません。
この記事では、ホテル・観光業における多言語対応の基本的な定義から、その重要性、具体的なメリット・デメリット、そして実践的な進め方までを網羅的に解説します。さらに、明日からでも検討できる具体的な多言語化の方法や、成功のための重要なポイント、役立つツールについても詳しくご紹介します。
この記事を読めば、自社の状況に合った最適な多言語対応の戦略を描き、インバウンド市場での競争力を高めるための具体的な第一歩を踏み出せるようになります。
目次
多言語対応とは
まずはじめに、「多言語対応」という言葉の基本的な意味と、関連する用語との違いについて正確に理解しておきましょう。この foundational な理解が、今後の戦略を立てる上で非常に重要になります。
Webサイトやサービスを複数の言語で利用できるようにすること
多言語対応とは、その名の通り、Webサイトや予約システム、パンフレット、館内案内といった様々な情報媒体やサービスを、日本語だけでなく複数の言語で提供することを指します。これは、単に文章を外国語に翻訳するだけでなく、訪日外国人旅行者が言語の壁を感じることなく、快適にサービスを理解し、利用できる環境を整える取り組み全般を含みます。
例えば、ホテルや旅館における多言語対応の具体例を考えてみましょう。
- 旅行前(情報収集・予約段階)
- Webサイトの多言語化: 施設の魅力や宿泊プラン、アクセス方法などを英語、中国語、韓国語などで閲覧できるようにします。
- 予約システムの多言語化: 予約フォームの項目や注意書き、決済画面などを多言語化し、海外からでもスムーズに予約を完了できるようにします。
- 多言語での問い合わせ対応: メールやチャットボットを通じて、外国語での質問に答えられる体制を整えます。
- 旅行中(滞在段階)
- 館内表示の多言語化: フロント、客室、レストラン、大浴場、非常口などの案内表示に複数の言語を併記します。
- 各種資料の多言語化: 施設案内、ルームサービスメニュー、周辺観光マップなどを多言語で用意します。
- Wi-Fi接続案内: 多くの旅行者が求めるWi-Fiの接続方法を、分かりやすく多言語で説明します。
- 対面でのコミュニケーション補助: 翻訳ツールや指差し会話シートなどを活用し、スタッフとゲストの円滑なコミュニケーションを支援します。
- 旅行後(口コミ・再訪促進段階)
- アンケートの多言語化: 外国語でのアンケートを実施し、海外ゲストからの貴重なフィードバックを収集します。
- お礼メールの多言語化: 感謝の意を伝えるメールを母国語で送付し、再訪や口コミ投稿を促します。
このように、多言語対応は旅行者の体験(カスタマージャーニー)のあらゆる接点において重要となります。母国語で情報にアクセスできるという安心感は、旅行者の不安を解消し、満足度を大きく向上させるための第一歩です。特に、文化や習慣の異なる日本での滞在において、言葉の壁は想像以上に大きなストレスとなり得ます。このストレスを解消し、「おもてなし」の心遣いを示すことが、多言語対応の本質的な目的と言えるでしょう。
グローバル対応との違い
多言語対応としばしば関連付けて語られる言葉に「グローバル対応(Globalization)」があります。この二つは密接に関連していますが、そのスコープ(範囲)において明確な違いがあります。
多言語対応(Localization / L10N)が、特定の国や地域(ロケール)の「言語」に合わせて製品やサービスを最適化することであるのに対し、グローバル対応(Globalization / G11N)は、言語だけでなく、文化、商習慣、法律、通貨、デザインなど、事業活動のあらゆる側面を世界中の様々な市場に対応できるようにする、より包括的な概念です。
グローバル対応は、大きく二つのプロセスに分解できます。
- 国際化(Internationalization / I18N): 将来的に様々な言語や地域へ展開することを見越して、製品やサービスの設計段階から、特定の言語や文化に依存しない中立的な構造を作っておくこと。例えば、ソフトウェアのソースコードから言語依存のテキスト部分を切り離しておく、文字コードをUTF-8のような多言語を扱えるものにする、といった技術的な準備がこれにあたります。
- 地域化・現地化(Localization / L10N): 国際化された製品やサービスを、特定のターゲット市場(ロケール)に合わせて具体的に適合させるプロセス。これこそが「多言語対応」が主に関わる部分です。言語の翻訳はもちろん、日付や時刻の表記、通貨単位の変更、その地域の文化に合わせた画像や色の使用なども含まれます。
ホテル・観光業におけるグローバル対応の具体例を挙げると、以下のようになります。
- 食事への配慮: イスラム教徒向けのハラルフード、ベジタリアンやヴィーガン向けのメニュー、食物アレルギー表示の多言語化など。
- 宗教への配慮: 礼拝用のスペース(プレイヤールーム)の設置や、メッカの方向を示すキブラの表示。
- 決済方法への対応: クレジットカードだけでなく、中国で普及しているAlipayやWeChat Payといったキャッシュレス決済手段の導入。
- 文化・慣習への配慮: 大浴場の利用方法をイラスト付きで分かりやすく説明する、客室に聖書やコーランを備え付けるなど。
つまり、多言語対応は、この広範なグローバル対応という概念を実現するための、極めて重要かつ基本的な構成要素の一つと位置づけられます。言語というコミュニケーションの根幹を成す部分をクリアしなければ、文化や習慣への深いレベルでの対応もゲストに伝わりにくくなります。まずは多言語対応から着手し、段階的にグローバル対応の範囲を広げていくことが、多くの施設にとって現実的なアプローチと言えるでしょう。
ホテル・観光業で多言語対応が重要視される3つの理由
なぜ今、これほどまでにホテル・観光業で多言語対応が重要視されているのでしょうか。その背景には、市場環境の大きな変化と、それに伴う顧客行動の変容があります。ここでは、その主な理由を3つの側面に分けて詳しく解説します。
① インバウンド需要の回復と拡大
最大の理由は、新型コロナウイルス感染症の水際対策緩和以降、訪日外国人旅行者(インバウンド)の数が急速に回復・拡大していることです。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2023年の年間訪日外客数は2,507万人に達し、コロナ禍前の2019年比で約78.6%まで回復しました。さらに、2024年に入ってからはその勢いが加速し、単月では2019年同月を上回る月が続いています。(参照:日本政府観光局(JNTO) 訪日外客数(2024年4月推計値))
この力強い回復は、長らく海外旅行が制限されていたことによるリベンジ消費や、円安が海外旅行者にとって大きな魅力となっていることが主な要因です。政府も「観光立国推進基本計画」に基づき、2025年までに訪日客数や消費額をコロナ禍前の水準を超える目標を掲げており、今後もインバウンド市場は拡大していくことが予想されます。
注目すべきは、訪日客の国籍・地域にも変化が見られる点です。韓国、台湾、香港といった東アジアからの訪日客が引き続き高い割合を占める一方で、欧米豪や中東からの旅行者も増加傾向にあります。これは、これまでターゲットとして意識してこなかった国や地域の言語に対応する必要性が高まっていることを意味します。
例えば、Webサイトが日本語と英語にしか対応していない場合、韓国語や中国語(繁体字)を母国語とする大多数の旅行者を、情報収集や予約の段階で取りこぼしてしまう可能性があります。インバウンド市場という大きな成長機会を最大限に活用するためには、主要なターゲット市場の言語に対応し、彼らがストレスなく情報を得られる環境を整備することが不可欠です。多言語対応は、この巨大な需要を取り込むための「入場券」とも言えるでしょう。
② 顧客満足度の向上による口コミ効果
第二の理由は、多言語対応がゲストの顧客満足度(CS)を直接的に向上させ、それが良質な口コミとなって新たな顧客を呼び込むという好循環を生み出すからです。
海外旅行において、旅行者が最も不安に感じる要素の一つが「言葉の壁」です。
- 「Webサイトの情報が正確に理解できず、どんな部屋なのか、どんなサービスがあるのか不安」
- 「予約手続きが複雑で、間違えていないか心配」
- 「現地で道に迷った時や、トラブルがあった時に、うまく伝えられるだろうか」
- 「レストランのメニューが読めず、何を注文していいか分からない」
こうした不安やストレスは、旅行体験全体の質を大きく損ないます。逆に、もし訪れたホテルのWebサイトや館内表示が自分の母国語で分かりやすく書かれていたらどうでしょうか。予約時の不安は解消され、滞在中は安心して施設を利用でき、スタッフとのコミュニケーションもスムーズになります。
このような「言葉の壁がない」という快適な体験は、ゲストに深い安心感と満足感を与え、「おもてなしの心」が伝わる強力なメッセージとなります。そして、高い満足度を得たゲストは、自身のSNS(Instagram, Facebook, Xなど)や、Booking.com、Agoda、Tripadvisorといった旅行レビューサイトに、ポジティブな感想を投稿してくれる可能性が非常に高くなります。
「ここのホテルはWebサイトが母国語に対応していて予約しやすかった!」
「館内の案内が分かりやすく、快適に過ごせた」
「言葉が通じなくても、翻訳ツールを使って親切に対応してくれた」
こうした具体的な口コミは、次に日本旅行を計画している潜在顧客にとって、何よりも信頼できる情報源となります。良い口コミが新たな顧客を呼び、その顧客がまた良い口コミを発信する。このポジティブなスパイラルこそが、広告費に頼らない持続的な集客を実現する鍵となります。多言語対応は、この好循環を生み出すための重要な投資なのです。
③ 機会損失の防止による売上アップ
第三の理由は、より直接的な売上への貢献、すなわち「機会損失の防止」です。多言語対応が不十分であることは、知らず知らずのうちに多くのビジネスチャンスを逃していることと同義です。
機会損失は、主に2つの場面で発生します。
- 予約段階での離脱:
海外の旅行者がホテルを探す際、多くは自国の言語で検索を行います。検索結果に表示されたホテルのWebサイトが日本語や英語のみであった場合、多くのユーザーは内容を理解できずにすぐに離脱してしまいます。彼らにとって、そのホテルは「存在しない」のも同然です。たとえ魅力的な施設やプランがあったとしても、その情報が伝わらなければ、予約というコンバージョンには決して至りません。 多言語対応されたWebサイトや予約システムを用意することは、この最も大きな機会損失を防ぐための絶対条件です。 - 滞在中のアップセル・クロスセルの機会損失:
機会損失は予約時だけに限りません。ゲストがホテルに滞在している間にも発生します。例えば、レストランのメニューが多言語化されておらず、魅力的なコース料理や地元の特産品を使った一品料理の内容が伝わらなかったらどうでしょう。ゲストは無難なアラカルトを数品頼むだけで終わってしまうかもしれません。
同様に、スパやエステの魅力的なプラン、ホテル主催の文化体験ツアー、お土産物店のおすすめ商品などが多言語で紹介されていなければ、ゲストはその存在に気づくことさえなく、利用の機会を逃してしまいます。
これらの追加的なサービス利用(アップセル・クロスセル)は、客室単価(ADR)だけでなく、宿泊者一人あたりの売上(RevPAR)を向上させる上で非常に重要です。多言語対応によって館内サービスの魅力を余すことなく伝えることは、滞在中の消費を促し、ホテル全体の収益を最大化することに直結します。
このように、多言語対応は守りの施策であると同時に、売上を積極的に伸ばすための攻めの施策でもあります。これまでリーチできなかった顧客層にアプローチし、かつ顧客一人ひとりの利用額を高めることで、事業の成長に大きく貢献するのです。
多言語対応を行う3つのメリット
多言語対応の重要性をご理解いただいたところで、次に、具体的にどのようなメリットが得られるのかを3つの視点から掘り下げていきます。これらのメリットは、単なるインバウンド対策に留まらず、施設のブランド価値向上や持続的な集客力の強化に繋がるものです。
① 海外からの新規顧客を獲得できる
最大のメリットは、これまでアプローチできなかった、まったく新しい海外の顧客層にリーチし、新規顧客として獲得できる点です。
多くのホテルや旅館は、国内の旅行予約サイト(OTA)や自社サイト経由での集客が中心となりがちです。しかし、多言語対応を行うことで、そのアプローチの幅は世界中に広がります。
例えば、英語、中国語、韓国語に対応したWebサイトを持つことで、これらの言語を母国語とする膨大な数の潜在顧客が、自施設の情報を直接見つけられるようになります。彼らは旅行計画の初期段階で、現地の言語で「東京 旅館 おすすめ」「京都 温泉 ホテル」といったキーワードで検索します。多言語サイトがこれらの検索クエリに応答できれば、これまで認知されていなかった施設が、新たな選択肢として彼らの目に留まることになります。
さらに、海外のOTAとの連携においてもメリットがあります。Booking.comやAgoda、ExpediaといったグローバルなOTAは、多言語対応している施設を高く評価する傾向にあります。施設の公式Webサイトが多言語化されており、情報が充実していると、OTA上での掲載順位が優遇されたり、特集ページで紹介されたりする可能性が高まります。これは、グローバルOTAという強力な販売チャネルを最大限に活用し、自社だけではリーチできない広範な顧客層にアプローチする絶好の機会となります。
また、特定の国や地域に特化した旅行会社やインフルエンサーとの連携も視野に入ります。例えば、タイの旅行ブロガーが日本のホテルを探している際に、タイ語に対応した魅力的なWebサイトを見つけたとします。彼はそのホテルを自身のブログやSNSで紹介し、多くのフォロワーにその魅力が伝わるかもしれません。このように、多言語対応は、意図しない形でのプロモーション(アーンドメディア)を生み出し、爆発的に認知度を高める可能性を秘めているのです。
② 施設のブランドイメージが向上する
多言語対応は、単なる実務的な利便性向上に留まらず、施設の「ブランドイメージ」を大きく向上させる効果があります。
海外からのゲストにとって、Webサイトや館内表示が自国の言語で丁寧に作られていることは、「歓迎されている」という明確なメッセージとして受け取られます。これは、日本の文化の根底にある「おもてなし」の心を、言葉を通じて具体的に示す行為です。このような心遣いは、ゲストにポジティブな印象を与え、施設に対する信頼感や愛着(ロイヤリティ)を育みます。
さらに、多言語対応は、施設が「国際的な基準を満たした、先進的でグローバルな視点を持つホテルである」というブランディングにも繋がります。特に、デザインやトーン&マナーが統一された高品質な多言語サイトは、プロフェッショナルで洗練された印象を与えます。これは、周辺の競合施設が日本語対応のみ、あるいは不自然な機械翻訳のみで対応している場合、強力な差別化要因となります。
顧客は、単に安いからという理由だけで宿泊先を選ぶわけではありません。特に、記念旅行やビジネスでの利用など、滞在の質を重視する顧客層にとっては、「信頼できる」「安心できる」というブランドイメージが決定要因となることも少なくありません。多言語対応は、こうした質の高い顧客層にアピールし、安易な価格競争から脱却して、ブランド価値に基づいた価格設定を可能にする一助となるのです。
長期的な視点で見れば、築き上げられたグローバルなブランドイメージは、施設の無形資産となります。世界中の旅行者から「あのホテルなら間違いない」という評価を得ることは、安定した集客と収益を確保するための強固な基盤となるでしょう。
③ 海外SEOによるアクセス増加が期待できる
3つ目のメリットは、より技術的かつ直接的な集客効果である「海外SEO(検索エンジン最適化)」によるWebサイトへのアクセス増加です。
海外SEOとは、外国の検索エンジン(主にGoogle)で、現地の言語で検索された際に、自社のWebサイトを上位に表示させるための施策です。多言語サイトを構築することは、この海外SEOを実施するための大前提となります。
具体的には、以下のような仕組みでアクセス増加が期待できます。
- ターゲットキーワードでの上位表示:
各言語で、現地のユーザーが実際にどのようなキーワードで宿泊施設を探しているかを調査し、そのキーワードを盛り込んだ質の高いコンテンツを作成します。例えば、英語圏のユーザー向けには “ryokan with private onsen in Hakone”、フランス語圏向けには “hôtel de luxe avec vue sur le Mont Fuji” といった具体的なキーワードで最適化されたページを用意することで、検索結果からの直接的な流入を獲得できます。 hreflang
タグによる適切なページ表示:
多言語サイトでは、hreflang
というHTMLタグを設定することが推奨されます。これは、検索エンジンに対して「このページには、〇〇語版や△△国のユーザー向けの別バージョンがあります」と伝えるためのものです。これにより、例えばフランス在住のユーザーがGoogle.frで検索した際には、自動的にフランス語のページが優先的に表示されるようになり、ユーザー体験が向上し、離脱率の低下に繋がります。- 被リンクの獲得:
質の高い多言語コンテンツは、海外の旅行ブログやニュースサイト、旅行関連コミュニティなどから参照され、リンク(被リンク)を獲得する機会が増えます。検索エンジンは、多くの質の高いサイトからリンクされているページを「信頼性が高く、価値のあるページ」と判断するため、検索順位が向上する要因となります。
これらの施策により、広告費を投じることなく、世界中から継続的に見込み客を自社サイトに呼び込むことが可能になります。 自社サイトへの直接のトラフィックが増えれば、OTAに支払う手数料を削減し、収益性を高めることにも繋がります。海外SEOは、一度仕組みを構築すれば長期的に効果を発揮する、非常に費用対効果の高い集客戦略なのです。
多言語対応を行う際の2つのデメリット
多言語対応には多くのメリットがある一方で、導入と運用にはいくつかの課題やデメリットも存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが、プロジェクトを成功に導くためには不可欠です。ここでは、主な2つのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
① 翻訳やシステム導入にコストがかかる
最も大きなハードルとなるのが、初期導入時および継続的な運用にかかるコストです。多言語対応に必要なコストは、大きく「翻訳コスト」と「システムコスト」に分けられます。
1. 翻訳コスト
翻訳コストは、その品質や方法によって大きく変動します。
- 機械翻訳(例: DeepL, Google翻訳):
最も低コストな方法です。近年のAI技術の進化により精度は向上していますが、まだ不自然な表現や誤訳のリスクは否めません。特に、おもてなしのニュアンスや専門用語、固有名詞の翻訳は苦手とする傾向があります。社内資料など内向きの用途には便利ですが、顧客向けの公式な情報としてそのまま使用するのは、施設のブランドイメージを損なう危険性があるため注意が必要です。 - プロの翻訳者(フリーランス、翻訳会社):
品質を最優先するなら、プロの翻訳者に依頼するのが最善です。観光業界に精通した翻訳者であれば、文化的な背景を理解した上で、自然で魅力的な文章を作成してくれます。一方で、コストは最も高くなります。料金は文字単価や単語単価で計算されることが多く、Webサイト全体の翻訳となると数十万円から数百万円規模になることも珍しくありません。また、急な更新に対応しにくいという側面もあります。 - ポストエディット(機械翻訳+人力修正):
コストと品質のバランスを取った方法です。まず機械翻訳で下訳を作成し、それをプロの翻訳者が修正・校正(ポストエディット)します。ゼロから翻訳するよりも時間とコストを抑えつつ、機械翻訳の不自然さを解消できます。 - 社内スタッフによる翻訳:
語学が堪能なスタッフがいれば、コストを抑えられます。しかし、そのスタッフの本来の業務を圧迫することになり、人件費という見えないコストが発生します。また、ネイティブレベルの品質を担保できるか、翻訳業務の属人化といった課題も生じます。
2. システムコスト
Webサイトや予約システムを多言語化するためのシステム導入にもコストがかかります。
- Webサイト多言語化ツールの導入費・月額利用料:
既存のサイトに後付けで導入できるツールは、比較的低コストで始められます。初期費用が数万円から、月額費用も数千円から数万円程度が相場ですが、対応言語数や機能によって価格は変動します。 - 多言語対応CMSでのサイトリニューアル費用:
サイトを新規構築またはリニューアルする場合、多言語機能を標準で備えたCMS(コンテンツ管理システム)を導入する方法があります。初期費用は高額になりがちですが(数十万~数百万円)、長期的な運用効率は高まります。 - AIチャットボット等の導入費・月額利用料:
多言語対応のチャットボットを導入する場合も、初期設定費用や月額のライセンス費用が発生します。
これらのコストは決して小さくありません。重要なのは、自施設の予算や目指す品質レベルに応じて、最適な方法を組み合わせることです。例えば、重要なページはプロに翻訳を依頼し、更新頻度の低いページはポストエディット、緊急性の高いお知らせはひとまず機械翻訳で対応するなど、優先順位をつけた段階的な投資計画を立てることが現実的でしょう。
② 運用・更新の管理が複雑になる
コストと並んで大きな課題となるのが、運用開始後の管理の煩雑さです。多言語サイトは「作って終わり」ではありません。継続的な情報更新とメンテナンスが不可欠であり、その管理プロセスは言語数に比例して複雑になります。
- 情報更新のタイムラグと一貫性の問題:
宿泊プランの料金改定、新しいイベントの告知、レストランのメニュー変更など、日本語サイトで情報を更新するたびに、すべての対応言語で同様の更新作業が必要になります。この翻訳と反映作業に時間がかかると、言語によって表示される情報が異なる「情報格差」が生じ、ユーザーの混乱やトラブルを招く原因となります。例えば、日本語サイトでは割引キャンペーンが始まっているのに、英語サイトではまだ通常料金のまま、といった事態は避けなければなりません。 - コンテンツ管理のワークフロー:
誰が更新内容を起票し、誰が翻訳を依頼し、誰がサイトに反映させ、誰が最終チェックを行うのか。この一連のワークフローを言語ごとに確立し、管理する必要があります。担当者が明確でないと、更新漏れや反映ミスが頻発するリスクが高まります。特に、複数の担当者や外部の翻訳会社が関わる場合、スムーズな連携体制の構築が不可欠です。 - 多言語での問い合わせ対応:
Webサイトを多言語化した結果、当然ながら海外からの問い合わせも増えます。メールや電話、チャットでの問い合わせに、それぞれの言語で対応できるスタッフや体制が必要になります。24時間対応が求められることもあり、人的リソースの確保や育成が新たな課題となる可能性があります。これに対応できないと、せっかく集客した顧客の満足度を下げてしまうことになりかねません。
これらの運用課題を軽減するためには、できるだけ一元管理ができるシステムを選ぶことが重要です。例えば、一つの管理画面から全言語のコンテンツを編集できる多言語対応CMSや、翻訳作業の進捗管理機能を持つWebサイト多言語化ツールなどを活用することで、運用の煩雑さを大幅に削減できます。また、定型的な問い合わせにはAIチャットボットを導入して自動化するなど、テクノロジーをうまく利用して人的リソースを最適化することも有効な対策となります。
【5ステップで解説】ホテル・観光業における多言語対応の進め方
多言語対応を成功させるためには、やみくもに着手するのではなく、戦略的な計画に基づいて段階的に進めることが重要です。ここでは、具体的な5つのステップに分けて、その進め方を分かりやすく解説します。
① 目的とターゲット国を明確にする
最初の、そして最も重要なステップは、「何のために多言語対応を行うのか」という目的と、「誰に情報を届けたいのか」というターゲット国を明確に定義することです。ここが曖昧なまま進めてしまうと、かけたコストや労力が無駄になってしまう可能性があります。
目的の明確化:
まずは、多言語対応によって達成したいゴールを設定します。ゴールはできるだけ具体的にしましょう。
- (悪い例)インバウンド客を増やしたい。
- (良い例)
- 海外からの公式サイト経由の直接予約を現状の2倍にする。
- 〇〇国からの宿泊客の割合を10%から20%に引き上げる。
- 海外の旅行レビューサイトでの評価を平均4.0から4.5に向上させる。
- 競合施設との差別化を図り、施設のブランドイメージを向上させる。
このように目的を具体化することで、後のステップでどの言語を優先すべきか、どの範囲を多言語化すべきかといった判断基準が明確になります。
ターゲット国の明確化:
次に、どの国・地域の旅行者をメインターゲットにするかを定めます。すべての国をターゲットにするのは非現実的です。自施設にとって最も効果が見込める国にリソースを集中させることが成功の鍵です。ターゲット国を選定する際には、以下のようなデータを参考にします。
- 自社データの分析:
- アクセス解析: Google Analyticsなどを使って、自社サイトにどの国からアクセスがあるかを確認します。すでに特定の国からのアクセスが多い場合、その国の言語に対応することで、予約転換率を大きく向上させられる可能性があります。
- 宿泊実績データ: 過去の宿泊者台帳を確認し、国籍別の宿泊者数や割合を分析します。実績のある国は、リピーター獲得や口コミ効果が期待できます。
- 公的データの活用:
- 日本政府観光局(JNTO)の統計: 国籍・地域別の訪日外客数や消費額、訪問先の都道府県などのデータが公開されています。国全体のトレンドを把握する上で非常に有用です。
- 市場・競合の分析:
- 近隣の競合施設の動向: 周辺のホテルがどの言語に対応しているか、どのような国からのゲストが多いかを調査します。競合が手薄な国を狙う戦略もあれば、逆に主要な市場で負けないように対応する戦略もあります。
- 自施設の強みとの合致: 例えば、スキーリゾートであればオーストラリア、温泉が売りであれば台湾や韓国、といったように、自施設の持つ魅力がどの国の人々に響きやすいかを考えます。
目的とターゲットが明確になれば、多言語対応プロジェクト全体の羅針盤となり、一貫性のある施策を展開できるようになります。
② 対応する言語を決める
目的とターゲット国が定まったら、次に対応する具体的な言語を選定します。
まず、グローバルな共通語である英語への対応は、ほとんどの場合で必須と考えましょう。英語は多くの国で第二言語として使われており、英語サイトがあるだけでカバーできる範囲は格段に広がります。
その上で、ステップ①で定めたターゲット国で話されている言語を追加していきます。その際の判断材料となるのが、訪日外客数のランキングです。
訪日外客数トップ10(2023年実績参考)
- 韓国
- 台湾
- 香港
- 米国
- 中国
- タイ
- フィリピン
- オーストラリア
- カナダ
- ベトナム
(参照:日本政府観光局(JNTO) 国籍/月別 訪日外客数)
このデータから、英語に加えて、韓国語、中国語(台湾・香港向けには繁体字、中国本土向けには簡体字)、そして東南アジアの言語(タイ語など)の優先度が高いことが分かります。
ただし、単純な訪問者数だけでなく、「一人当たりの旅行消費額」も重要な指標です。消費額の大きい欧米豪からの旅行者も非常に魅力的なターゲットであり、フランス語、ドイツ語、スペイン語などへの対応も、施設の客層やブランド戦略によっては有効な選択肢となります。
予算や運用リソースには限りがあるため、最初から多くの言語に対応しようとせず、優先順位をつけて段階的に追加していく「スモールスタート」がおすすめです。まずは「英語+ターゲット国1〜2言語」から始め、効果測定をしながら次に対応する言語を検討していくのが現実的かつ効果的なアプローチです。
③ 多言語化する範囲を決める
対応言語が決まったら、次に「施設の情報やサービスのどこまでを多言語化するのか」という範囲を決めます。すべてを一度に対応するのはコストも手間もかかります。顧客の体験(カスタマージャーニー)に沿って、予約完了や満足度向上に最もインパクトの大きい部分から優先的に対応していきましょう。
Webサイト
Webサイトは海外ゲストとの最初の接点であり、最も重要な多言語化の対象です。しかし、サイト内の全ページを一度に翻訳するのは大変です。まずは、予約獲得に直結する以下のページから優先的に対応します。
- 優先度【高】:
- トップページ
- 客室・宿泊プラン紹介ページ
- 料金・空室状況ページ
- アクセス・地図ページ
- よくある質問(FAQ)
- 優先度【中】:
- 館内施設(レストラン、温泉、会議室など)の案内ページ
- 施設のコンセプトや魅力・こだわりを伝えるページ
- 周辺観光情報
- お問い合わせフォーム
- 優先度【低】:
- スタッフブログ
- お知らせ・ニュース(更新頻度が高く、翻訳コストがかさむため)
予約システム
Webサイトの中でも、予約システム(予約フォーム、決済画面)は最優先で完璧に多言語化する必要があります。 ここで少しでも分かりにくい部分があると、ユーザーは不安を感じて予約を中断してしまいます(カゴ落ち)。入力項目名、注意書き、エラーメッセージ、キャンセルポリシーなど、細部に至るまで正確で分かりやすい翻訳が不可欠です。
館内案内・メニュー
ゲストが施設に到着してからの体験を向上させるために、館内での情報提供も重要です。
- 必須レベル:
- 非常口、避難経路の案内
- Wi-FiのIDとパスワードの案内
- フロント、ロビー、大浴場など主要な場所への案内表示
- 推奨レベル:
- 客室内の利用案内(エアコン、テレビ、金庫などの使い方)
- レストランのメニュー
- ルームサービスのメニュー
- 大浴場や温泉の入り方を説明するイラスト付きの案内
紙媒体で用意する場合、初期コストはかかりますが、一度作成すれば長く使えます。
問い合わせ対応
問い合わせ対応も多言語化の重要な範囲です。
- メール: 定型的な返信テンプレートを各言語で用意しておくと、効率的に対応できます。
- チャットボット: よくある質問(チェックイン/アウトの時間、最寄り駅からのアクセスなど)はAIチャットボットに任せることで、24時間365日、多言語での自動対応が可能になり、スタッフの負担を大幅に軽減できます。
- 電話: 電話でのリアルタイム対応は難易度が高いですが、少なくとも英語で対応できるスタッフを配置するか、近隣の観光案内所など緊急時に連携できる窓口を案内できるようにしておくと安心です。
このように、「予約への影響度」と「顧客満足度への貢献度」という2つの軸で優先順位をつけ、段階的に対応範囲を広げていくことが、効率的な多言語化のポイントです。
④ 多言語化の方法を選ぶ
多言語化する範囲が決まったら、それを「どのように実現するか」という具体的な方法を選びます。主な選択肢は、後の章でも詳しく解説しますが、ここでは概要を整理します。
- Webサイト多言語化ツールを導入する: 既存サイトに後付けで導入できる。手軽でスピーディー。
- 多言語対応のAIチャットボットを導入する: 問い合わせ対応を自動化・効率化する。
- 翻訳会社に翻訳を依頼する: プロによる高品質な翻訳を求める場合に最適。
- 翻訳ツール(機械翻訳)を活用する: 低コストだが品質に注意が必要。下訳などに活用。
- 多言語対応CMSでサイトを構築・リニューアルする: 長期的な運用効率と拡張性に優れる。
これらの方法は、「コスト」「品質」「スピード」「運用の手間」といった点で一長一短があります。 例えば、スピードと低コストを重視するなら①や④、品質を最優先するなら③、長期的な視点で根本的に解決したいなら⑤、といった具合です。
自施設の予算、求める品質レベル、ITに関する知識を持つスタッフの有無、サイトの更新頻度などを総合的に考慮し、最適な方法、あるいはこれらの方法の組み合わせを選択することが重要です。
⑤ 運用体制を整える
最後のステップは、多言語対応を継続的に行っていくための「運用体制」を整えることです。多言語対応は一過性のプロジェクトではなく、継続的な取り組み(プロセス)です。せっかく多言語サイトを作っても、情報が古いままで放置されていては意味がありません。
以下の点について、あらかじめルールや担当者を決めておきましょう。
- 更新ワークフローの確立:
- 日本語サイトで情報が更新された際、誰が、いつまでに、どの言語の翻訳を手配するのか?
- 翻訳が完了したら、誰がサイトに反映させるのか?
- 反映後、誰が内容が正しいか(誤訳や表示崩れがないか)をチェックするのか?
この一連の流れを明確にし、担当者をアサインします。更新管理シートなどを作成して、各言語の進捗状況を可視化するのも有効です。
- 問い合わせ対応フローの確立:
- 海外から問い合わせがあった場合、一次対応は誰が行うか?(例:AIチャットボット、フロントスタッフ)
- 一次対応で解決できない複雑な問い合わせは、誰にエスカレーション(引き継ぎ)するのか?(例:語学堪能な特定のスタッフ、支配人)
- 対応履歴をどのように記録・共有するのか?
スムーズな連携体制を構築し、ゲストを待たせることのないようにします。
- 効果測定と改善のサイクル:
- 定期的に(月次など)、多言語サイトのアクセス数や予約数、問い合わせ件数などのKPIを測定し、効果を検証します。
- アクセス解析データやゲストからのフィードバックを基に、「どのページの翻訳を改善すべきか」「次に追加すべき言語は何か」といった改善点を見つけ、次の施策に繋げます。
「作って終わり」にせず、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを回し続けること。これこそが、多言語対応を真に成功させ、継続的な成果に繋げるための鍵となります。
ホテル・観光業におすすめの具体的な多言語対応の方法5選
多言語対応を進めるための具体的な方法は一つではありません。ここでは、ホテル・観光業で特に有効な5つの方法をピックアップし、それぞれの特徴、メリット・デメリットを比較しながら詳しく解説します。自施設の状況に合わせて、最適な方法や組み合わせを検討してみましょう。
多言語化の方法 | 特徴 | メリット | デメリット | こんな施設におすすめ |
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① Webサイト多言語化ツール | 既存サイトに後付けで導入。自動翻訳とプロ翻訳を併用可能。 | 導入が比較的容易、低コストから始められる、SEO対策機能がある | デザインの自由度が低い場合がある、翻訳精度はツール依存 | 既存サイトを活かしたい、スピーディーに導入したい、IT専門家がいない |
② AIチャットボット | 24時間365日、多言語での自動問い合わせ対応が可能。 | 顧客満足度向上、人件費削減、予約転換率アップ | 初期設定やシナリオ作成に手間がかかる、複雑な質問には対応不可 | 問い合わせ業務を効率化したい、予約の取りこぼしを防ぎたい |
③ 翻訳会社に依頼 | プロの翻訳者による高品質な翻訳。 | 高い品質と自然な表現、文化への配慮 | コストが高い、時間がかかる、更新のたびに依頼が必要 | ブランドイメージを重視、専門用語が多い、予算に余裕がある |
④ 翻訳ツール(機械翻訳) | DeepLやGoogle翻訳など。低コスト・スピーディー。 | 無料または低コスト、即時翻訳が可能 | 翻訳精度が不十分な場合がある、専門用語や固有名詞に弱い | 予算が限られている、社内での参考資料、下訳として利用 |
⑤ 多言語対応CMS | サイト構築時から多言語を前提としたシステム。 | 運用管理がしやすい、デザインの自由度が高い、拡張性が高い | サイトリニューアルが必要、初期コストが高い | 新規でサイトを構築する、大規模サイト、将来的に言語を増やしたい |
① Webサイト多言語化ツールを導入する
これは、既存の日本語Webサイトはそのままに、後付けで多言語機能を追加する方法です。多くの場合、指定されたJavaScriptタグをサイトに埋め込むだけで導入が完了するため、Webサイトを改修する専門的な知識がなくても比較的簡単に始められます。
仕組み:
ツールを導入すると、サイトに言語切り替えボタンが表示されます。ユーザーが言語を選択すると、ツールが動的にページのテキストを抽出し、あらかじめ用意された翻訳文に置き換えて表示します。翻訳文は、ツールの管理画面上で管理でき、機械翻訳をベースに、手動で修正(編集)したり、プロの翻訳者に依頼したりできます。
メリット:
- 導入の手軽さとスピード: サイトの大幅な改修が不要なため、短期間かつ低コストで導入できます。
- 運用のしやすさ: 専門的な知識がなくても、管理画面から直感的に翻訳の修正や管理が可能です。
- 柔軟な翻訳品質: 機械翻訳、セルフ翻訳、プロ翻訳をページごとや文章ごとに使い分けることができ、コストと品質のバランスを取りやすいです。
- SEO対策機能: 多くのツールには、海外SEOに不可欠な
hreflang
タグを自動生成する機能が備わっています。
デメリット:
- カスタマイズの制限: 画像内のテキストや、特殊なプログラムで表示されるテキストなどは、自動で翻訳できない場合があります。
- 表示速度への影響: 外部のJavaScriptを読み込むため、ページの表示速度がわずかに遅くなる可能性があります。
- 継続的なコスト: 月額または年額の利用料が発生します。
こんな施設におすすめ:
- 既存のWebサイトのデザインや構成を大きく変えずに、すぐにでも多言語対応を始めたい施設。
- Webサイト制作の専門スタッフが社内にいない中小規模のホテルや旅館。
- まずはスモールスタートで効果を試してみたい施設。
② 多言語対応のAIチャットボットを導入する
Webサイトのコンテンツそのものではなく、ユーザーからの問い合わせ対応を多言語化・自動化する方法です。Webサイトの右下などにチャットウィンドウを設置し、ユーザーからの質問にAIが24時間365日、自動で回答します。
仕組み:
「アクセス方法は?」「チェックイン時間は?」といった、よくある質問とその回答を多言語で事前にシナリオとして登録しておきます。ユーザーがチャットで質問を入力すると、AIがキーワードや文脈を解析し、最適な回答を自動で提示します。宿泊業界に特化したチャットボットの場合、空室確認や予約機能と連携しているものも多くあります。
メリット:
- 業務効率化と人件費削減: 定型的な問い合わせ対応を自動化することで、スタッフはより高度な業務や、おもてなしに集中できます。夜間や早朝の問い合わせにも対応可能です。
- 機会損失の防止と予約率向上: ユーザーが疑問を感じたその場で即座に解決できるため、サイトからの離脱を防ぎ、予約完了へと導きます。
- 顧客満足度の向上: いつでも気軽に質問できるという安心感が、ゲストの満足度を高めます。
デメリット:
- 初期設定の手間: 導入時に、想定される質問と回答(FAQ)を洗い出し、シナリオとして登録する作業が必要です。
- 複雑な質問への対応限界: シナリオにない個別性の高い質問や、クレームなどの感情的な対応はAIでは困難です。有人対応への切り替えフローを準備しておく必要があります。
こんな施設におすすめ:
- 海外からの問い合わせが多く、スタッフの対応負荷が高い施設。
- Webサイトからの予約の取りこぼし(離脱)を減らしたい施設。
- 24時間対応を実現し、顧客満足度をさらに高めたい施設。
③ 翻訳会社に依頼する
品質を最優先する場合の王道ともいえる方法です。プロの翻訳者が、文法的な正しさはもちろん、文化的背景やターゲット層の心に響く表現まで考慮して翻訳を行います。
仕組み:
WebサイトのテキストをWordファイルなどに書き出して翻訳会社に渡し、翻訳されたテキストを自社でWebサイトに反映させます。会社によっては、CMSに直接ログインして翻訳作業を行ってくれるサービスもあります。
メリット:
- 圧倒的な品質: 機械翻訳では決して実現できない、自然で正確、かつ魅力的な文章に仕上がります。施設のブランドイメージを何よりも重視する場合に最適です。
- 専門性への対応: 温泉の効能、歴史的背景、料理の専門用語など、業界特有の表現も的確に翻訳してくれます。
- 文化への配慮(ローカライズ): 単なる直訳ではなく、ターゲット国の文化や慣習に合わせた表現の調整(ローカライズ)を行ってくれます。
デメリット:
- 高コスト: 他の方法と比較して、費用は最も高くなります。文字単価で計算されるため、サイト全体のボリュームが大きいとかなりの金額になります。
- 時間と手間: 依頼から納品までに時間がかかります。また、情報の更新のたびに依頼と反映作業が発生し、スピーディーな対応が難しい場合があります。
こんな施設におすすめ:
- 高級ホテルや老舗旅館など、施設の格式やブランドイメージを非常に重視する施設。
- Webサイトのコンテンツに専門的な内容が多く含まれる施設。
- 予算に比較的余裕があり、最高品質の多言語サイトを目指す施設。
④ 翻訳ツール(機械翻訳)を活用する
DeepLやGoogle翻訳といった、AIを活用した機械翻訳ツールを利用する方法です。近年、その精度は飛躍的に向上しており、多くの場面で活用できます。
仕組み:
翻訳したい日本語のテキストをツールにコピー&ペーストするだけで、即座に外国語の訳文が生成されます。APIを利用すれば、自社のシステムに翻訳機能を組み込むことも可能です。
メリット:
- 圧倒的な低コストとスピード: 無料または非常に安価な料金で、瞬時に翻訳が完了します。急な告知など、スピードが求められる場面で役立ちます。
- 多言語対応: 非常に多くの言語に対応しているため、マイナーな言語の翻訳にも対応できます。
デメリット:
- 品質の不安定さ: 全体としては自然に見えても、細かなニュアンスの違いや誤訳が含まれるリスクが常にあります。特に、敬語や独特の言い回し、固有名詞は苦手です。
- ブランドイメージ低下のリスク: 不自然な翻訳をそのまま公式サイトに掲載することは、ユーザーに不信感を与え、施設の信頼性やブランドイメージを損なう恐れがあります。
こんな施設におすすめ(ただし使い方に注意):
- あくまで補助的なツールとして活用する場合におすすめです。例えば、翻訳会社に依頼する前の「下訳」として利用してコストを削減したり、社内スタッフが海外からのメール内容を把握するために利用したりといった使い方が有効です。
- 公開情報に利用する場合は、必ずネイティブスピーカーによるチェック(校正)を入れることが必須です。
⑤ 多言語対応CMSでサイトを構築・リニューアルする
Webサイトを新規で構築、またはリニューアルする際に、初めから多言語対応を前提としたCMS(コンテンツ管理システム)を導入する方法です。WordPressの「WPML」や「Polylang」といったプラグインを利用する方法もこれに含まれます。
仕組み:
一つの記事やページに対して、各言語のバージョンを紐付けて管理できます。管理画面から言語を切り替えて、それぞれの内容を編集・更新できるため、運用管理が非常にスムーズです。
メリット:
- 運用管理の効率性: 元の言語と翻訳後の言語のコンテンツを一元管理できるため、更新漏れが起こりにくく、管理が非常に楽になります。
- デザインとSEOの自由度: 言語ごとに最適なデザインやレイアウトを適用したり、URL構造(サブディレクトリ形式など)を自由に設計したりできるため、高度な海外SEO対策が可能です。
- 拡張性: 将来的に対応言語を増やしたくなった場合でも、比較的簡単に追加できます。
デメリット:
- 高い初期コスト: サイトの構築・リニューアル費用がかかるため、初期投資は大きくなります。
- 導入までの時間: サイトの設計から構築、コンテンツ移行まで、導入には時間がかかります。
こんな施設におすすめ:
- これから新しくWebサイトを立ち上げる予定の施設。
- 既存のサイトが古くなっており、近々リニューアルを検討している施設。
- 複数の言語に対応し、長期的な視点で本格的に海外集客に取り組みたい大規模なホテル。
多言語対応を成功させるための4つのポイント
多言語対応の方法を選び、実行に移す際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。これらの点を意識するかどうかで、施策の効果は大きく変わってきます。ここでは、多言語対応を真に成功へと導くための4つの秘訣を解説します。
① 各国の文化や法律、慣習に配慮する
多言語対応は、単に言葉を置き換える「翻訳(Translation)」作業ではありません。その国の文化や価値観を理解し、それに合わせて表現やコンテンツを最適化する「ローカライゼーション(Localization)」あるいは「カルチャライゼーション(Culturalization)」という視点が不可欠です。
- 言葉のニュアンスとタブー:
例えば、プロモーションで「幸運の7号室」とアピールしても、国によっては「7」が不吉な数字とされる場合があります。また、色の持つイメージも文化によって大きく異なります。白は日本では神聖な色ですが、欧米では純粋、中国では弔いの色といった側面も持ちます。こうした文化的な背景を無視した直訳は、意図せずして相手に不快感を与えてしまう可能性があります。 - ビジュアルコンテンツの配慮:
Webサイトに使用する写真やイラストも注意が必要です。例えば、日本人が当たり前のように行うピースサインのジェスチャーは、ギリシャでは侮辱的な意味を持つことがあります。また、人物写真も、ターゲットとする国の人々にとって親近感のわくモデルを起用する方が、より共感を得やすくなります。 - 法律や制度の説明:
日本の宿泊施設には、宿泊税や入湯税といった、海外にはない独自の税金がかかる場合があります。これらについて事前に分かりやすく説明しておかないと、チェックアウト時に「聞いていない料金を請求された」といったトラブルに発展しかねません。また、キャンセルポリシーの規定なども、誤解のないよう明確に記述する必要があります。 - 宗教上の配慮:
特にイスラム教徒(ムスリム)のゲストを迎える際は、食事(ハラル対応)や礼拝に関する配慮が求められます。Webサイト上で、ハラルフードの提供可否や礼拝スペースの有無といった情報を明記しておくことは、ムスリム旅行者にとって非常に重要な情報となります。
これらの文化的な配慮を怠ると、せっかくの多言語対応が逆効果になりかねません。 可能であれば、ターゲット国の文化に精通したネイティブスピーカーにコンテンツ全体をレビューしてもらうことが理想的です。
② 翻訳の品質を担保する
多言語対応の成否は、最終的に「翻訳の品質」にかかっていると言っても過言ではありません。不自然で分かりにくい翻訳は、ユーザーの離脱を招くだけでなく、施設の信頼性を著しく損ないます。
機械翻訳の限界を理解する:
前述の通り、近年の機械翻訳の精度は向上していますが、万能ではありません。特に、ホテル・旅館のWebサイトで多用される「おもてなしの心」「癒やしの空間」「旬の味覚を堪能」といった情緒的・抽象的な表現を、そのニュアンスまで汲み取って翻訳するのは非常に困難です。機械翻訳はあくまで効率化のためのツールと割り切り、顧客の目に触れる重要なコンテンツには必ず人間の手を入れるという原則を徹底しましょう。
品質とコストの最適なバランスを見つける:
すべてのテキストをプロの翻訳家に依頼するのが理想ですが、予算的に難しい場合も多いでしょう。そこでおすすめなのが、「機械翻訳+ネイティブによるポストエディット(修正・校正)」というハイブリッドなアプローチです。これにより、コストを抑えながらも、機械翻訳特有の不自然さを解消し、自然で読みやすい文章に仕上げることができます。
翻訳の一貫性を保つ工夫:
Webサイト全体で翻訳のトーン&マナーや用語が統一されていることは、プロフェッショナルな印象を与える上で重要です。そのために、以下のようなツールやルールを活用すると効果的です。
- 用語集(グロッサリー): 施設名、プラン名、地名などの固有名詞や、業界専門用語の訳語をリスト化し、翻訳者と共有します。これにより、表記の揺れを防ぎます。
- 翻訳メモリ(TM): 過去に翻訳した文章のペア(原文と訳文)をデータベースとして蓄積する仕組みです。同じ、または類似した文章が出てきた際に再利用できるため、翻訳の効率と一貫性が向上し、コスト削減にも繋がります。
翻訳の品質は、施設の「顔」であり「声」です。 ここに投資を惜しまないことが、長期的な信頼獲得への近道となります。
③ 多言語SEO(hreflang設定など)を意識する
せっかく高品質な多言語サイトを作成しても、ターゲット国のユーザーに見つけてもらえなければ意味がありません。そこで重要になるのが、海外の検索エンジンで上位表示を目指す「多言語SEO(または国際SEO)」です。
hreflang
属性の正しい設定:
多言語SEOにおいて最も基本的かつ重要な技術的設定がhreflang
属性です。これは、HTMLの<head>
セクションに記述するタグで、検索エンジンに対し、「このページには、これらの言語/地域のバージョンがありますよ」と伝える役割を果たします。
例えば、日本語ページに、
<link rel="alternate" hreflang="en" href="https://example.com/en/page.html" />
<link rel="alternate" hreflang="ko" href="https://example.com/ko/page.html" />
と記述することで、Googleは英語ページと韓国語ページの存在を認識します。これにより、英語圏のユーザーには英語ページが、韓国のユーザーには韓国語ページが検索結果に表示されやすくなります。
URL構造の選択:
多言語サイトのURL構造には、主に3つの選択肢があります。
- サブディレクトリ:
example.com/en/
,example.com/ko/
- サブドメイン:
en.example.com/
,ko.example.com/
- ccTLD (国別コードトップレベルドメイン):
example.co.uk/
,example.co.kr/
一般的に、管理のしやすさとSEO効果のバランスから「サブディレクトリ」形式が最も推奨されます。
キーワードのローカライズ:
日本語で効果的なキーワードが、そのまま直訳して海外で通用するとは限りません。ターゲット国のユーザーが、実際にどのような単語やフレーズを使って情報を探しているのかを調査し、コンテンツをそのキーワードに合わせて最適化する必要があります。例えば「格安ホテル」というキーワードも、英語では “cheap hotel”, “budget hotel”, “affordable hotel” など、様々な表現があり、それぞれ検索するユーザー層のニュアンスが異なります。現地の検索意図を理解することが、多言語SEO成功の鍵です。
④ 言語ごとにデザインやレイアウトを調整する
Webサイトのデザインやレイアウトも、すべての言語で全く同じものが最適とは限りません。言語や文化の違いによって、微調整が必要になる場合があります。
- 文字数の違いへの対応:
一般的に、日本語の文章を英語に翻訳すると文字数(テキスト量)は約1.5~2倍に、ドイツ語ではさらに長くなる傾向があります。逆に、日本語や中国語は比較的少ない文字数で多くの情報を表現できます。そのため、日本語では綺麗に収まっていたボタンや見出しのテキストが、他言語でははみ出してレイアウトが崩れてしまうことがあります。どのような長さのテキストが入ってもデザインが破綻しない、柔軟な(フレキシブルな)レイアウトを意識して設計する必要があります。 - 書字方向への対応:
アラビア語やヘブライ語のように、文字を右から左(RTL: Right-to-Left)に書く言語に対応する場合は、サイト全体のレイアウトを左右反転させる必要があります。メニューやロゴの配置、テキストの整列など、デザインの根本的な見直しが求められます。 - UI/UXの最適化:
国によって、好まれるWebデザインの傾向や、ユーザーが使いやすいと感じるUI(ユーザーインターフェース)が異なる場合があります。例えば、情報量が多く賑やかなデザインを好む文化もあれば、シンプルでミニマルなデザインを好む文化もあります。可能であれば、ターゲット国のユーザーが慣れ親しんだナビゲーションやボタン配置などを参考にし、ユーザー体験(UX)を最適化することで、サイトの回遊率や予約転換率の向上が期待できます。
これらのポイントは、多言語対応を単なる作業で終わらせず、戦略的なマーケティング活動として成功させるために不可欠な要素です。
ホテル・観光業の多言語対応に役立つツール3選
多言語対応を効率的かつ効果的に進めるためには、テクノロジーの活用が欠かせません。ここでは、ホテル・観光業の現場で実際に役立つ代表的なツールを3つ、それぞれの特徴とともにご紹介します。
※各ツールの情報(料金、機能等)は、本記事執筆時点の公式サイトの情報に基づいています。ご利用の際は、必ず最新の情報をご確認ください。
① shutto翻訳(Webサイト多言語化ツール)
shutto翻訳は、株式会社イー・エージェンシーが提供する、導入の手軽さと機能のバランスに優れたWebサイト多言語化ツールです。既存のサイトにJavaScriptタグを一行追加するだけで、すぐに多言語対応を開始できます。
- 主な特徴:
- 導入の手軽さ: サイトの改修不要で、専門知識がなくても簡単に導入できます。
- ハイブリッド翻訳: 高精度な機械翻訳(DeepL/Google翻訳)をベースに、管理画面上で直感的にテキストを修正できる「セルフ編集機能」や、プロの翻訳者に依頼できる「プロ翻訳依頼機能」を搭載。ページや予算に応じて、最適な翻訳品質を選択できます。
- リアルタイム編集: 実際のWebサイトの表示を確認しながら、見たままの感覚で翻訳文を編集できます。
- 画像翻訳機能: バナー画像などに含まれるテキストも、翻訳後のテキストに差し替えることが可能です。
- SEO対応:
hreflang
タグの自動設定など、海外SEOに必要な基本的な機能も備わっています。
- 料金プラン(目安):
初期費用と月額費用で構成されています。月額費用は、翻訳対象のページ数や言語数に応じて複数のプラン(エントリー、ビジネスなど)が用意されており、月額数千円〜数万円程度から利用可能です。
(参照:shutto翻訳 公式サイト) - こんな施設におすすめ:
既存のWebサイトを活かしながら、スピーディーかつ比較的低コストで多言語化を実現したい中小規模のホテルや旅館に最適なツールの一つです。IT専門の担当者がいない施設でも、直感的に運用しやすい点が魅力です。
② tripla(宿泊業界特化のAIチャットボット)
triplaは、tripla株式会社が開発・提供する、宿泊業界に特化したAIチャットボットサービスです。公式サイトの予約率向上と、問い合わせ業務の効率化を同時に実現することを目指して設計されています。
- 主な特徴:
- 宿泊業界特化: 宿泊施設の「よくある質問」をAIが学習済みで、高い正答率を誇ります。
- 5言語に標準対応: 日本語、英語、韓国語、中国語(簡体字/繁体字)に標準で対応しており、訪日客の主要な言語をカバーしています。
- 24時間365日自動対応: スタッフに代わってAIが24時間問い合わせに対応し、機会損失を防ぎます。
- 予約エンジン連携: AIチャットボットがユーザーの希望を聞きながら、最適な宿泊プランを提案し、予約までをアシストします。公式サイトの予約エンジンと連携し、予約完了率を高めます。
- CRM/MA機能: 顧客情報を蓄積し、セグメントに合わせたメール配信など、マーケティング活動にも活用できます。
- 料金プラン(目安):
料金体系は公式サイトに明記されておらず、施設の規模や必要な機能に応じて個別に見積もりとなる形式です。詳細については、直接問い合わせが必要です。
(参照:tripla株式会社 公式サイト) - こんな施設におすすめ:
Webサイトからの直接予約を増やしたい、問い合わせ対応の業務負荷を軽減したいという明確な課題を持つホテルや旅館に非常に有効です。顧客満足度の向上と収益アップを両立させたい施設に適しています。
③ DeepL(高精度な機械翻訳ツール)
DeepLは、ドイツのDeepL SE社が開発した、ニューラルネットワーク技術に基づく非常に高精度な機械翻訳ツールです。その自然で流暢な翻訳品質には定評があり、世界中の多くのユーザーに利用されています。
- 主な特徴:
- 高い翻訳精度: 競合の翻訳ツールと比較しても、特に長文や複雑な構文において、文脈を理解した自然な翻訳を生成する能力に優れています。
- 用語集機能: 固有名詞や専門用語の訳し方を登録しておくことで、翻訳の揺れを防ぎ、一貫性を保つことができます。
- 多様な利用形態: Webブラウザ版やデスクトップアプリのほか、API(Application Programming Interface)も提供されており、自社の予約システムやCMSにDeepLの翻訳機能を組み込むことも可能です。
- 豊富な対応言語: 欧米の主要言語はもちろん、アジア言語を含む多数の言語に対応しています。
- 料金プラン(目安):
テキスト量に制限のある無料版と、文字数無制限でセキュリティも強化された有料版「DeepL Pro」(個人・チーム向け)があります。API利用は、翻訳した文字数に応じた従量課金制です。
(参照:DeepL公式サイト) - こんな施設におすすめ:
あくまで補助的なツールとして、多言語対応の様々なシーンで活用できます。例えば、海外からのメールの内容を素早く把握する、Webサイトコンテンツの「下訳」を作成して翻訳コストを削減する、APIを利用して社内システムを効率化するなど、使い方は多岐にわたります。
ただし、DeepLの翻訳をそのまま公式サイトなどの公開情報に使う場合は、必ずネイティブチェックを入れるというルールを徹底することが、ブランドイメージを守る上で極めて重要です。
まとめ
本記事では、ホテル・観光業における多言語対応の重要性から、具体的な進め方、成功のためのポイント、そして役立つツールまで、幅広く掘り下げて解説してきました。
インバウンド需要が本格的に回復し、拡大を続ける現代において、多言語対応はもはや一部の先進的な施設が行う特別な施策ではなく、海外からのゲストを迎え入れるための「基本的なインフラ」であり、事業成長に不可欠な経営戦略となっています。
言葉の壁を取り払い、海外のゲストが安心して情報を収集し、予約し、滞在できる環境を整えることは、顧客満足度を向上させ、良質な口コミを生み出し、新たな顧客を呼び込むという好循環の出発点となります。それは結果として、機会損失を防ぎ、施設のブランド価値を高め、持続的な売上アップへと繋がっていきます。
もちろん、多言語対応にはコストや運用の手間といった課題も伴います。しかし、重要なのは、すべてを一度に完璧にやろうとしないことです。
まずは自施設の目的とターゲットを明確にし、最もインパクトの大きい部分から、身の丈に合った方法でスモールスタートを切ること。 そして、Webサイト多言語化ツールやAIチャットボットといったテクノロジーを賢く活用し、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善していくことが成功への鍵となります。
この記事が、皆様の施設における多言語対応への取り組みを力強く後押しし、グローバルな市場での競争力を高める一助となれば幸いです。テクノロジーによる効率化と、日本ならではの「おもてなしの心」を両立させ、世界中から訪れるゲストに最高の体験を提供していきましょう。